大人が今さら聞けない日本の財政とデフレ・円高のなぜ? 子供が経済専門家に聞く2010年真夏の放談会


 一時1ドル79円台をつけた1995年以来、15年ぶりの円高水準となってしまった2010年夏の猛暑日。 8月の対ドル円相場はどんどん下がり、とうとう海外では一時1ドルあたり83円台をつけた。国内経済に悪影響を与えると言われ、自動車業界や電気業界が、このままだと工場を海外移転するしかないと政府に詰め寄る円高の状況。
 これだけ日本経済が悪いと言われているのに、弱い日本の中でどうして円だけはこんなに強いの? 円高が輸出企業にとって悪いのは分かるけど、本当に日本全体の経済にとっても悪いことなの?
 

−−−−
「子供」
 近くのスーパーで円高還元セールも開催されていたし、夏休みに海外旅行に行った友達はお得だったみたいです。円高は悪いことばかりではない気がします。円高のメリットとデメリットを教えてください。

「シンクタンク調査役」
 円高が日本経済にとっていいか悪いかは一概に言えません。円高で困る人もいれば、喜ぶ人も当然います。一番困るのは輸出関連企業です。製品を輸出して受け取った1ドルが、今までは90円だったのに85円になればそれだけ売り上げや利益が減って従業員の給料の支払いに困ります。一方、輸入関連業者からすれば、これまで1ドルのものを輸入して買うのに90円用意しなければならなかったのに、85円の支払いで済めば当然メリットになります。

「経済評論家」
 日本では輸出の方が輸入より額が大きいと言われていますが、実は、為替の影響を受けるドル建て貿易に限って言うと、輸入の方が輸出よりも大きい。そのため、日本全体の企業ベースで見れば、円高メリットの方が大きいはずと言えます。
 ところが輸入業者は、せっかく安く仕入れて収益を上げても、消費者から「それなら安く売れ」と言われ、還元セールで収益の増加につながらないとこぼします(これはちょっと円高効果とは違うかな)。まあとにかく、輸出企業にはデメリットをもたらすし、輸入業者は収益の増加につながらないので、日本企業全体の平均収益をみればデメリットが大きいとなってしまう。 
 しかし、消費者が得た利益を含めて考えれば、石油やガソリン価格も安くなっているし、日本国民全体では円高の方がプラスとも言えます。
 また輸入企業以外でも、原材料を輸入して高度な技術で加工して国内消費者向けに販売している企業は円高メリットが大きいはずです。例えば、金・宝飾細工とか、農産物輸入の食品加工メーカー、石油や木材チップ輸入のプラスチック・紙パルプ製造メーカーも悪くないのではないでしょうか。不景気で消費者の財布のひもが堅くなっていますけどね。

「家計エコノミスト」
 家計における円高メリットは、モノを買う値段が安くなることです。デフレ気味と言うことですね。 一方デメリットとしては、日本の経済を支えている輸出企業の業績が悪くなると、企業ではコストカットの話になって、給料が上がらない、下がる、リストラされる。就職先が無くなり、サラリーマンの生活が不安定になる。これがデメリットの部分です。
 ということは、会社勤めを引退して貯金と年金で生計を立てている老人家庭にとっては、円高はデフレ気味で物価が安くなり、メリットの方が大きいと言えます。 政府としては、国の経済が悪くなれば年金支払い資金を消費税増税で確保という話も出てくるかも知れませんが、さしあたりは、現在のデフレと円高の状況は、年金の老人家庭にとってはメリットが大きい。これは一種の世代間格差ですね。

「経済評論家」
 現在の日本では老人・年金生活者の割合が増えていますから、インフレ指向政策は政府としても選挙対策としてとりづらいかも知れないですね。 また、インフレ指向政策を採って国債の利子が真っ先に高くなってしまうと、財務省は大量に抱えている国債の利払いが出来なくなって困るでしょうしね。財務省やいろんな政党の財政政策やマスコミの報道を比較してみると、それぞれの思惑・スタンスが読み取れて興味深いです。
 国債大量発行して景気をよくするという案もあります。しかしこれは、もしも大量発行しても景気が良くならず企業からの納税が増えなかった場合、消費税をドンと上げるとともにインフレターゲットでお金の値打ちを半減させて、国の借金を半減するくらいしか打つ手が無くなります。すなわち、国の負債を10年以内にハードランディング方式で整理することになります。
 これは、国民にとっては消費税が上がる一方で貯金が半減するわけですから、貯蓄を取り崩して生活している年金老人家庭にとっては大変です。10年くらいかけて消費税を20%まで上げ、インフレで1000万円の貯金を実質500万円に切り下げるようなことになれば、今50才くらいのサラリーマン家庭が定年を迎える頃が最も悲惨な状況になりかねません。
一方、大きい借金を抱えている人は借金額が半減しますから、メリットが大きいです。  

−−−−
「子供」
 どうして、今、円高になったのですか。


「経済評論家」
 欧州ではギリシャの財政破綻がありました。それだけでなく、スペインやポルトガルなども経済問題を抱えています。そうなればユーロの経済システム自体が危ないということでユーロからお金が離れる、離れたお金はどこへ向かうでしょうか。
 米国を見ると急に財政赤字が増えてきているし、もともとアメリカの貿易赤字額は大きい。住宅や雇用も悪化してきて、先行きが不安だということになる。では日本はというと、日本も財政赤字が大きく決して良くはない。
 しかし、為替の価値というのは、最終的には政府債務の価値の問題です。そこで債務内容をよく見ると、米国の国債は中国、日本を含めて4割以上を外国が買って持っている。米国が得意とする戦争でも起こらない限り、もうこれ以上は外国勢は米国債を買ってくれない可能性が高い。
 それに比べて日本はというと、国債の9割以上が日本国内で買われている。いざとなったら、政府はインフレ指向政策や消費税増税などを行えば日本国民から債務を取り戻せる。そう言うわけで、国の債務の健全性比べをすると日本の方がアメリカやヨーロッパよりもマシということなのです。 中国の元は厳重に為替管理されていて、市場に解放されてはいませんしね。

「家計エコノミスト」
 日本政府の債務は、家庭にたとえると、お父さんが共働きの金持ちお母さんから借金をしているようなものです。お母さんは近所の人にお金を貸してもいるし、いざとなればお母さんに泣きついてお父さんの借金はちゃらにしてもらえるかも知れない。
 海外から見れば、日本は外国に借金が無く、それどころか266兆円も外国にお金を貸している世界一の大金持ちです。だから、一旦事が起きれば、世界中で円が買われて円高になる。グローバルスタンダード・世界基準では、日本が一番安定している国なんです。ジャパンアズナンバーワンなのです。

−−−−
「子供」
 2010年の8月24日には、一時1ドル84円台になりました。どこまで円高は進みそうですか。


「シンクタンク調査役」
 これはディーラーの気分相場でもありますから、円高がどこまで進むか誰にも分かりません。しかし、実は「今がそれほど円高ではない」という見方もできるんです。15年ぶりの円高と言われていますが、米国は15年間で物価も給料も上がってきたので、インフレ気味で、実質のドル紙幣の価値が落ちている。一方の日本はデフレ気味で、物価は下がったが給料も下がり、国内でも1万円札・諭吉さまのご威光は落ちていない。
 結果として見ると、15年前と今では日米の物価水準に大きい開きが出来てしまいました。つまり、米国は日本製品を買いやすくなり、日本は米国製品を買いづらくなった。これは円安が進んでいるのと同じことです。これを実質為替レートといいますが、そこでは円の価値が15年前の3分の2になって、大幅な円安ドル高になっている。15年前と同じ水準にしようとすれば、円が1.5倍強くならなければいけない。1ドル63円にしてやっと実質15年前と同じくらいだと言う人さえ居ます。

「経済評論家」
 動く時は為替は10%くらいの幅で動く。1ドル85円からさらに10%円高になる、あるいは円安になるというのは、どちらが起こってもおかしくない。つまり75円も95円もあり得るということ。ただ、為替予測するのはエコノミストにとって自殺行為と言われるくらい、過去に当ったためしがありません。ディーラーの気分や各国政策などの要因が多すぎて、当たるも相場当たらぬも相場です。
 しかし、過去に大蔵省のお役人だった榊原さんは、円高を予測してかなりの確率で当てましたね。実は、彼はお役人時代に大量の円売りドル買い介入して、外国人投機家を何人も破産させてミスター円と言われましたが、その時に買いあさった大量のドル紙幣やアメリカ国債が日本の金庫にしまい込まれたまま(アメリカは日本がドルを勝手に放出するのを嫌がりますから)になっており、今では価値がだいぶ目減りしてしまっています。

−−−−
「子供」 円高を防ぐ何か良い対策はないのですか。

「シンクタンク調査役」
 それはもう、円売りドル買いの為替介入しかないと思います。介入は先進各国が協調してやらないと効かないと言われています。だからこそやれば効くと思います。投機家というのは、為替が上がろうが下がろうが構わない。動きが大きければ大きいほど、売買した時にもうかるわけですから。円高が進むと見て、たくさん円を買い込んでおなかいっぱいになっているところで、ドーンと介入して3円なり5円なりの円安に持っていけば、投機家たちは大損する。以前に日本がバーンと介入したときのように、投機家は一度やけどをすると、しばらくはおとなしくなりますし、いつまた介入されるか分からないと思えば腰が引ける。大戦争でも起こらない限り円安への反転は無理ですが、少なくとも円高への動きは止められると思います。

「家計エコノミスト」
 うーん、外国政府と一緒に協調介入しない限り介入はうまくいきそうにないというのが大方の見方で、私自身もそう思っています。介入して買いあさったドル紙幣や米国債が、また売るに売れない不良債権になりかねないしね。
 一方、日本銀行が単独でもできることは、長期国債の買い入れをバーンと増やすこと。長期金利も下がり、円を供給することができる。もう一つは、日銀総裁が「消費者物価がある程度になるまで政策金利を上げない」ことなどを国民と約束することです。そうすれば、当面事実上のゼロ金利が続くということで、円が売られやすくなります。

−−−−
「子供」
 地方では、円高であろうとなかろうと最近は不景気で仕事もなく、若い人は都会に出て行くしかない状態です。家計としてはどんな工夫をしたらいいですか?
 

「家計エコノミスト」
 国でも、家計でも、方法は二つしかない。出るもの(支出)を減らすか、入るもの(収入)を増やすかです。この二つを組み合わせてやっていけば、安定した家計になります。
 ところで主題からは少し外れますが、近代の日本の一番の問題は、政財官とマスコミが東京で結託しておかみの癒着利権構造を作りあげたことです。東京に行かなければ日本では何一つ決められない。この構造は経済効率的で地方もこれに従っていればお金をもらえたために、バブル崩壊後はこの構造はいっそう強固になりました。 実は、私も東京にいるからマスコミや講演会などのいろいろな仕事が入り、利益にあずかっていますので、あんまり言えないのですが・・・・・。
 しかし、今後は、地方は東京(国)からお金がもらえる時代ではなくなります。東京から全国に指令を出せる状況でもなくなります。日本の体制一新のためには、まずは公務員集団の霞ヶ関や政府系公益法人などが東京から地方移転し、最終的には国会も東京からは離れるべきでしょう。 一方、地方自身もある程度インフラ整備できたら、経済自立してゆく覚悟が必要です。世界には四国や九州、北海道と同じ規模の国家はいくらでもあり、いずれも立派にやっています。

−−−−
「子供」 
 外貨預金で投資はどうですか。


「家計エコノミスト」
 今の円高は、円が積極的に買われているというより、米国経済すなわちドルが悪すぎるためです。その状況は米国経済が良くならない限り、ズルズルと続く可能性がある。ヨーロッパもひどい状況です。ギリシャは一見、救済されたようにみえているが、実はまだ落ちているんです。怖いことです。他にも、スペインの銀行危機やハンガリーの粉飾決算など、悪い材料には事欠かない。
 そんな不安定な時期に、子供や家庭の主婦のような素人が、わざわざ大切な円を外貨に替える必要はありません。海外旅行などですぐ使う予定があるなら、必要な分だけ買えばいいんです。こういう時期は、素人は変な投資をしないことが一番です。

−−−−
「子供」
 いろいろ教えていただいて有り難うございました。専門の先生達の間にもいろんな考え方があって、経済問題が難しいことも良く分かりました。



2010年8月29日
九州ホーム > 会員トピックス