原子力発電問題と日本の電力エネルギーの将来 -原子力発電とLNG液化天然ガス発電と農地用太陽光ソーラーパネル発電-   福島第一原子力発電所事故から4ヶ月過ぎて/ 2011年7月


 2011年3月に地震・大津波による全電源喪失に起因する東京電力福島第一原子力発電所メルトダウン事故が起きて、原発立地10-20キロ圏内住民の長期間の避難が余儀なくされた。さらにその後の水素爆発で原子炉建屋の放射性物質が広範囲に飛散したことが分かった。30キロ圏外の土地にもスポット的に放射性物質が降り注ぎ、それらの土地の野菜や海中の魚介類の放射能汚染、さらにはその地域の稲ワラを食べた飼育肉牛が汚染されているにもかかわらず、全国のスーパーなどで販売されてしまったことが分かった。

 これらの補償は莫大な額となり、東京電力が全額補償するか、国の責任を認めて税金をつぎ込むか、で国会等で7月に至っても揉めている最中である。いずれにしても、この原発事故の被災者に対してはどこかが早く補償救済しなければならないのだから、国が補償の立て替え払いを行い、あとで東電にしかるべき補償額を支払わせるのがスジというものであろう。

 さて、今回の事故の責任(補償問題として考えるのが分かりやすい)が、事故の当事者である東電にあるのか、原子力推進施策や安全保障を行ってきた政府(経済産業省)にも及ぶのか、国会で問われるのは当然であるが、事故の2年前までは原子力推進の主体が自民党政権であったことも問題解決を複雑にしている。

 実態上、経済産業省と電力業界はこれまで一体化して電力エネルギー供給の責任を負い、電力エネルギーのうち3割弱を原子力でまかなってきた。さらに20年後には原子力発電の割合を5割まで高めることを、民主党政権になってからも宣言したところである。この施策に政財界マスコミはもろ手を挙げて賛成してきた。何故これほどまでに、大手マスコミを含めて日本の政財官界は原発に入れ込んでいるのか?


=電力企業にとっては安価な原発発電コスト=
 それは、これまでは原子力発電は彼らにとって儲かるメシのタネであったからと言えよう。最近でこそ石油火力発電やLNGガス発電などは、ちょっと気の利いた大企業などが各地で気軽に設置するようになってきた(近年、電力企業が保有する送電線網の利用が渋々ながら認められるようになったからだが)。 しかし原発の設置となると、さすがにその危険性から政府(経済産業省など)が特に安全に対して厳しい許認可権を持つことが国民からも求められ、沖縄電力を除く10電力企業のみが原発施設を独占するシステムが作られ、一般企業が原発保有することなどはありえないとされてきた。 しかし、今回の事故は、その安全保障システムへの国民の信頼を裏切った。 財界などからは、この夏の電力供給が危ないとの理由で安易な原発再稼働のアピールがされているが、安全神話を助長してきた財界にはその反省が全くないのが奇妙に見える。

 原発が電力企業にとって儲けるタネであったということについて説明しよう。 発電用原子炉の法定耐用期限は通常16年であり、16年経てば設備投資は減価償却できるように原発コストが計算されている。 原子力発電所建設申請の際の認可のために経済産業省電源開発調整審議会に電力企業が提出した資料によると、発電コスト試算額は原子炉と立地によってばらつきがあるが19円−7円、平均して13円/kwh程度である。すなわち16年間13円以上で電気を販売すれば元が取れ、そのあとは原子炉稼働して発電すればするほど電力会社は丸儲けなのである。原発は、火力発電と比べて燃料代が発電コストに占める割合が非常に低いためだ(例えばウラン価格が2倍になっても、原発コストは2割くらいしか増えないという)。

 日本の商用原発54機のうち18機(全体の1/3)が既に30年以上稼働しているが、これらはとっくに減価償却して元を取っている。原発建設16年経ったから来年からは電気代を値下げしましょうなどという電力会社は聞いたことがないが、日本の電気代はEUの一部国を除くと事故前の時点でさえも世界で高い部類に入る。如何に電力会社が儲けているかということだ。この巨額の儲けの一部が、原発推進宣伝費として新聞やTVなどのマスコミ、推進国会議員への政治献金、パーティ券代、原発立地市町村への寄付、電力子会社の設立資金、電力会社役員や天下り官僚への高い給料に回っているだろうことは容易に推測できる。


 発電コスト見積もりの比較というのがある。経済産業省資源エネルギー庁が出した2010年試算では、原子力5-6円/kwh、火力7-8円、太陽光49円となっている。この数字は宣伝されているので良く見かけるが、実はこの資源エネルギー庁試算では、原子炉建設の際の漁業補償金、原子力に特有な再処理費用、1 kWhあたり1 - 2 円の燃料費等のバックエンドコストは含んでいるが、電源三法による地元への交付金 (税金)、電力企業からの地元対策寄付金、原子炉廃炉解体費用、原発事故の際の賠償金等は含んでいない。 これらの経費や、国が開発支援する高速増殖炉もんじゅや国際熱核融合実験炉ITERの研究費も必要経費に算入すると、国民全体として支払う原子力発電コストはさらに高くなるはずであり、この資源エネルギー庁試算の原発コストは低すぎる。

 一方で、米国エネルギー省が2016年に稼働させる予定の発電コストを試算したところでは、改良型の原子力10.3円、LNG火力5.9円、石炭火力9.8円、太陽光19.0円となっており、すでにここでは原子力発電のコスト優位性は失われてしまっている。 おそらく日本の古い原発は、自動車に例えるとエアバッグもシートベルトも装備せずに、安全性軽視の安上がり設備で運転してきたようなものであろう。自動車だったら即リコールだ。
 今回の津波では全電源喪失が原子炉破損重大事故を引き起こしたが、そもそも停止後もウラン燃料棒が炉心熔融するほどの熱が発生するものなら、その余熱エネルギーを活用して自家発電するなりして、原子炉へ冷却水を送ることくらいは至って簡単な技術のはずであり、それを知らなかったとは言わせない。


 このような古くて安い原発を30年どころか40年超も稼働させようとするのであれば、水素爆発しないように原子力建屋天井にガス抜き穴を開けたり、津波浸水防止として原子力建屋前に土嚢を積んだり、ドアに浸水防止のゴムパッキンをつけたりするだけでは、済まされるものではなかろう。 高い頑丈な津波防波堤建設は当然のこと、それ以外にもしっかり金をかけて新設する米国原発並みの安全設備を具備させたあとで再稼働させてほしいものだ。
 実のところ、地震国日本の原発は今回の原発事故で米国よりさらに高価な設備にしなくてはならず、今後は政府や財界がどれだけ新規の原発建設を勧めようとも、電力会社自身が原発は採算が取れないとして建設を拒否すると思う。 コストメリットがなくなり、経済産業省からは箸の上げ下げまでうるさく監視され、地元自治体からはことあるごとに寄付を強要され、万一の事故の際には莫大な補償を支払わなければならないやっかいものになった原発を新規に建設する電力会社が1社でもあるとはとても思えない。

 =追記するが
 原発事故を受けて政府が2011年8月に新たに試算した原子力発電コストは16-20円/kwhであったと電気新聞社が報道し、日本学術会議では早速この数字を取り入れて将来の日本の電気料金体系を試算したという。 この政府試算の原発コストには、これまでの原発立地補助金、原子炉廃炉費用や原発事故の際の賠償金、プルトニウムリサイクル費用その他一切合財が含まれると推測されるが、それにしても今回の政府試算16-20円/kwhは、従来宣伝されていた経済産業省資源エネルギー庁の原発コスト試算5-6円/kwhよりも 3-4倍も高い。
 私個人としては、妥当な原発コストは米国の試算に近い11円/kwhくらいであろうと推定しているが、それにしても、これほど実際の原発コストが高くさらに万一の原発事故の際の莫大な賠償金は電力会社が全額負担しなければならないとなると、今後は政府や経団連がどれほどそそのかしても新規原発建設をしたい電力会社はもはや日本にはおるまい。今では電力会社の最大関心事は、すでに莫大な金をかけて建設してしまった約50基の既存原発の再稼働しか眼中にはないと思われる。

 原発再稼働ができず安い電気がなかったら日本から出てゆくとか経団連首脳は言っているようだが、そもそも経団連に加盟しているような大企業は、原発再稼働で電気代が安くなっても、この円高状況下では市場確保と低賃金を求めて海外に工場移転してゆくはずだ。経団連首脳には、原発再稼働したら加盟大企業には絶対日本から出てゆかさないとの念書でも書く覚悟があるのだろうか。もう経団連は原発再稼働が必要などと政治に口を出すことは止めて、農協のように国からの補助金頼りになる前にとっとと海外に出て行って活躍してもらうほうがよほど日本の将来のためになる。

 付け加えておくと、日本では原発稼働の最大の受益者は電力系企業を筆頭に工場企業群である。原発などで大量に発電した電気量の約6割は、工場企業群などの大口ユーザーに安く卸されている。その安い電気の使用によって日本の工場と経済が回っているのだと、経団連などは主張している。 しかし電力会社の電気販売収益の面から見ると、大口電気卸からの収益は全体の1割程度に過ぎず、電力会社の収益のおよそ9割は一般家庭用や小売店舗など小口ユーザーからの高い電気料金徴収によるものだ。 すなわち、一般家庭や小売店舗向けの高い電気代こそが高収益の源泉であり、実は、日本の電力会社にとっての上得意のお客様は一般家庭や小売店舗ということなのだ。


=原子力発電施策の解決すべき課題と、安価なLNG発電の活用=
 まず解決すべき課題のひとつめは、すでに建設してしまった原発について国民が再稼動に納得する安全基準を確立することだ。あとひとつは、原発はどれだけ修理しても寿命は例えば50年と決めてしまうことだ。廃炉化コストが高額だからといって、いつまでもズルズル原子炉を稼動させることは許されない。50年と決めてしまえば50年後には日本の原発はゼロになることになるが、それくらいの期間をかけて原発脱却し、液化天然ガス火力発電(LNG火力)や再生エネルギー発電に置き換えて行くくらいの知恵はまだ日本にはあるだろう。
 今年の夏や冬の電力需給を乗り切るために、点検停止中の原発を安易に再稼働させようと希望する者達が財界、マスコミ、官界、政界に多く居るようだが、その人達は万一再び原発事故があった場合には損害補償の無限責任を誰に取らせようとしているのだろうか。もしも政府が安全宣言して電力会社に再稼働を促すならば、それは万一の放射能事故の無限責任損害補償を国民の税金で支払うことを意味するのだが、そのことに対して国民の理解は得られるのか・・・・・・。

 米国エネルギー省の試算では、2016年頃のLNG発電コストは原発の半分程度であり、安価なことはすでに述べた。現在は幸いなことに、非常な円高であり、LNGの輸入コストも低い。LNGは石油と違って世界中のあちらこちらに埋蔵産地がある。米国やカナダで、2-3年前に地下のオイルシェール(頁岩層)からのLNG採掘法が開発されて以来、LNGの価格はそれまでの半値以下になり、日本はアメリカからLNGを安値で長期購入する契約の交渉中である。 また将来は、日本近海でLNGの一形態であるメタンハイドレートの採取ができるようになる可能性さえもある。
 LNGは二酸化炭素の発生量も石油よりだいぶ低いので、地球温暖化対策としての二酸化炭素抑制を政府が急ぎ過ぎなければ、日本の電力企業や大電力使用企業、地方自治体などは、今後は100万キロワット級の原子力発電所に相当する巨大LNG発電所を建設して安価な電力を確保するとともに、余剰電力は東京電力などに売電供給してゆくことになると私は推測している。 すでに川崎市では東京ガスなどの巨大LNG火力発電所が稼動しているし、東京都も巨大LNG火力発電所建設を計画していると聞く。


=太陽光ソーラー発電=
 送電ネットワークの電圧変動に悪影響を及ぼさない条件を考慮して、太陽光ソーラー発電については日本の昼間電力需給の1割程度を占めるようになれば、それでピークカット電力源としての役割を十分に果たすと思う。

 太陽光発電コストについては資源エネルギー庁では49円/kwhと異常に高く見積もっているが、米国エネルギー省では19円/kwhと試算しており、原発の2倍程度の発電コストである。 高価な昼間電気料金として19円程度であれば、他の発電と比較しても十分に対抗可能なコストであるし、技術開発によりさらに低コスト化も見込める発電方法である。 

 なお太陽光に関しては、今はやりの広い土地が必要なメガソーラー発電所を作るよりも、小規模分散ソーラー発電が望ましいと、私個人は考えている。 なぜならば、日本の地方に行けば過疎地の農地(急傾斜地や棚田等、耕耘機が入らない分散土地で大規模集約化は困難な土地がほとんど)は、耕作者が高齢化して農作業が困難になり、鹿や猿やイノシシの害もあり、耕作放棄地になりかけている。 このような耕作できなくなった南向きの急傾斜地や休耕田畑の10mx10mほどの土地に防雑草用の黒ビニルシートを敷いてソーラパネルを敷き詰め、土地にかかる税金は農地扱いのままとすれば、農地を放棄するよりも太陽光ソーラー発電に投資してみようとする農家の需要は多い。 結果として、高齢農家の耕作放棄地利活用と、原子力の目減りを少しでも補う電気生産ができるので、日本としても一挙両得であろう。

 重要なポイントは、高齢農家向けとしてソーラーシステム投資を5年間で回収できるようにパネル単価を安価にすることだ。狭い家の屋根に載せるわけでもないので、パネルの発電効率や枠強度などは少し劣っていても良く(その様な農地用ソーラーパネルの日本標準規格を政府は早々に準備すべきである)、20万円/kwパネル程度で、パネルを農家に供給できれば5年間で投資を回収することが可能になり、高齢農家も農地を放棄するよりもソーラー投資をして月に2万円程度でも収入を得ようと考えるのではないか。 高齢農家にとってはソーラー設置資金が足らないだろうから、そこは農協の出番であり、農協が高齢農家に低利融資をしてはどうか。今のソーラーシステムはパワコン部分さえ取り替えれば25年は稼働可能だから、このソーラーシステムと設置した農地を担保にとっておけば、万一の場合にも農協は安心して融資できよう。

 農産物とは太陽の恵みの産物だが、その産物はコメ・ムギや野菜などの食品ばかりではない。木材バイオマス生産も、綿花栽培や花卉栽培もタバコ・薬草栽培もある。 これらと同じように、太陽の恵みで生産されるソーラー電気は農作物であると農林水産省が認定しさえすれば、経済産業省や財務省を説得して農地でもソーラー電気生産できるのではないか。 農水省は、国交省と縄張り争いしながら日本各地で林道や農免道路などの農水省管轄道路を造って行った歴史もあるから、頑張ってほしい。

 日本の太陽光発電パネルメーカは、ソーラーパネルについては携帯電話のように高価にガラパゴス化することなく、農地用ソーラーパネル製造を中国や韓国メーカーと競争して打ち勝ち、徹底的に安い価格設定で生産販売して頂きたいし、パネル枠作成や電気工事は過疎地の地場鉄工所や電気工事店と組んで地域振興を考えてほしいと期待する。

                                      −以上−

2011年7月24日
九州ホーム > 会員トピックス