2011年8月為替相場1ドル75円時代を受けてあらためて円高の得失を考える。輸出力と購買力物価水準を映す円高、ドル・ユーロ安。 今後は為替介入よりも円高メリットを生かす海外進出施策が得策か? 庶民の自己防衛策は?

 1995年と今とでは、日米の物価水準に大きい開きが出来てしまっている。購買力による実質為替レートでは、円の価値が1995年と日米比較して1.5倍も強くなって来ているので、1995年と同じ日米の物価水準にしようとすれば、為替レートが1ドル63円になって初めて1995年の日米物価水準に戻る。すなわち、1ドル75円くらいではまだまだと言う計算になる。米国における製造業の衰退とドル紙幣の大量刷増しにより、米国経済は疲弊してしまっていると言うことだ。

 実際に、世界中で売られているマクドナルド・ビッグマックの各国での販売価格から割り出した指数を基に通貨価値を比べると、1ドル75円は極端な円高ではない。「エコノミスト」の2011年7月号発表によると、米国で4.07ドルのビッグマックは日本(東京)では320円である。これを基に計算した「ビッグマック指数による為替レート」と比べると、現在の実際の為替レートはわずか3%ほどしか高くない。1ドル79円あたりがちょうど釣り合いのところである。
 一方、国家的な為替介入を繰り返している中国の人民元為替相場は、ビッグマック為替レートと比較して44%も低くなっている。もし完全自由相場に任せて居れば、元は5割近く切り上がるかも知れない。


 為替相場介入がやりにくい日本は、海外からまだまだ円は強く、円を買う余地があるとされ、円高悪循環の一因になっている。しかし、日本円が将来も本当に強いかとなると、決してそうは言い切れない。今は、国際通貨覇権国である米国のドル刷増しと、ユーロの金融不安がひどすぎるために、円高になっているだけだ。 しかし本当に日本にとって円高・デフレが悪いのか? 円高で潤っている産業も多いに違いない。 デフレによる契約・派遣若者のリストラは問題だが、預貯金に頼るしかない老人にとってはデフレは有難い現象だ。
 
 今の円高は、他に投資先がないグローバルヘッジファンドが金塊を買いあさっていると同じ感覚で、安定している日本円を買っているために過ぎない。他の良い投資先やちょっとしたきっかけがあれば、いつでもグローバルヘッジファンドはそちらに乗り換えて円安に向かうことも十分に考えられる。 日本政府が円買い介入などしてみせても本当は円高を望んでいるはずと足元を見られているが、もし日銀が本当に円紙幣を大量刷り増しする(大量赤字国債発行も同じこと)気配を見せれば、すぐにグローバルヘッジファンドがたかって来て円安・インフレに振れるだろう。そのインフレが適切なところでおさまればよいが、そうでなければ日本の銀行などもあわてて日本国債を手放して外国債を買うので、日本国債は暴落し国債金利が跳ね上がる。膨大な国債利払いしなければならない日本政府は立ち行かなくなる。こうなれば政府日銀はさらなる大インフレを引き起こして借金棒引きして対応するしか術がなくなるが、これは日本の破滅だ。

 赤字の穴埋めに増税する代わりに赤字国債(償還しないので、円紙幣刷り増しと同じ)を大量発行することでインフレターゲットし、景気浮揚させて税収で赤字を取り戻すとするアイデアもあるが、この20年間は日本ではこの施策では景気は浮揚せず、税増収もうまくゆかない。
 財務省や日銀に、インフレターゲット設定してインフレを暴走させず適度に円安コントロールする高等テクニックや能力があるのならば、インフレターゲット施策の出しようもあるのだろうが、それは無いものねだりである。 結局、政府は13兆円の大震災復興資金も堅実に増税でまかなうことに決めて現状の円高安定を図っている。 しかし、もしも莫大な国内国債を抱える日本政府がこの数年内に増税を実施できなかった場合、たまらず政府・日銀が大量の円紙幣刷増しすれば、すぐにグローバルヘッジファンドは反応して国債価格が暴落して金利が上がり、日本は歯止めのきかない円安、次いで大インフレに振れる。 政府や日銀は必死にそれを食い止めようとしている。

 しかし、いろいろなきっかけでまず日本国債が暴落して金利上昇し、それから極端な円安・インフレに向かう可能性はこの10年内に5割くらいはあると、私は予測する。


 日本国内の預貯金総額は最近になって急減しており、2011年中に1千兆円を切る。 日本国債発行総額は2010年で900兆円と膨大ではあるが、そのほとんどが日本国内で消化されていることがこれまでの日本の強みであった。 しかし、日本国民が自前預貯金で日本国債をまかなえなくなったら、そのときは中国かアラブ詣でをして日本国債を買ってもらうしかない。これはそう遠い話ではないかもしれない。
 まあ、日本国債が暴落し金利が上がり始めたら、そのときは歯止めの効かない円安・大インフレの予兆だから、庶民は急いでブラジルやカナダ、オーストラリアなどの資源大国の国債を購入してインフレヘッジすることだ。 間違っても高くなりすぎた金塊などを購入すべきでない。

 今の円高で日本国内の製造業拠点が流出喪失してしまえば、その後の円安も国内製造業にとってはもはや何らメリットはなく、むしろ輸入石油や食料品の高騰を招き、日本経済の衰退にも歯止めがかからなくなる怖れさえある。
 しかしながら、ここからは難しい問題だが、私としては日本の輸出型大企業はもう日本政府や日本国民のエコポイントなどにを頼らないで日本離れする方が良いと思う。 企業が体力のある今のうちに海外企業買収や資源買収をして、外国に本店や工場を持つグローバル国際企業へと転身を図り、日本が極端な円安に振れた場合には、日本国内に海外工場を戻すくらいの気概で打って出ることだ。そのように進化した日本系グローバル製造業企業にとって、日本は人口1億人の一市場に過ぎず、日本国内市場は日本支店に任すくらいの割り切りも必要になろう。
 実際、日産ルノーやソニーなどの大企業は、いち早くその様に進化しているし、これに追随するゼネコンや電気企業などの大企業は今後急増すると予測する。大企業ではないが楽天なども社内会議を英語にしてその道を歩もうとしている。

 銀行などの金融業にとっては、これもグローバル化して財務省のくびきを外れ、日本で集めたお金を海外で運用して高い利益を出す能力が必須になるのではないか。 製造業とは異なり、日本の金融業は欧米系の百戦錬磨の海千山千金融企業には勝てそうもなく、心細くはあるが・・・・・・・。

 しかし、私が最も海外に打って出て欲しいと思うのは、実は国内独占で今日まで生きてきた電力会社や自治体水道公社、鉄道・航空会社である。長い間の独占事業で、利潤も技術も蓄積があるだろう。日本には支店を置いておくだけで構わないから、今後はどんどん海外に打って出て儲けてもらい、その利益を日本に環流して欲しいものだ。




−−それでは、過去の円高為替問題のおさらい−−

−円高、ドル安のメリットデメリット−

◆円高とは。
 「円高」とは「円の価値が高くなること」。では何と比べて高くなるかといえば「他国の通貨(紙幣・貨幣)と比べて」という説明になる。 それぞれの独立国家では自国で発行した通貨を用い、社会生活・経済を動かしている。日本なら「円」、アメリカなら「(アメリカ)ドル」、ユーロ圏なら「ユーロ」、イギリスなら「ポンド」といった具合だ。そして基本的に、ある国においては自国発行の通貨以外は使えない。近所の商店街で1ドル札を手渡しても買い物はできないし、ヨーロッパ旅行に出かけて店先で1万円札を手渡しても(珍しがられるが)お土産は買えない。

「円高」とは、円の価値が海外の通貨と比べて高くなること他国で買い物をする時には事前に交換所などでその国の通貨と手持ちの通貨を交換しておく必要がある。この取引の際に使われる交換比率(レート)が「為替レート」。よく耳にする「1ドル○×円□△銭」というのは、「アメリカドルの1ドルあたり日本円で○×円□△銭と交換できますよ」を意味する(厳密には手数料などがあるが、ここでは省略)。

 現在ほとんどの国で行われている「変動相場制」では、為替レートは両国間のさまざまな状態で変化する。もっともシンプルな考え方は「価値の高い通貨ほどレートも高くなる」。以前何度か紹介したジンバブエで、1アメリカドルあたりのジンバブエ・ドルが数億にも数兆にも跳ね上がっているのは、「それほどまでにジンバブエ・ドルを積み増さないと、同じ価値のものが買えないから」ということだ。
 もっとも現在の「円高」は厳密には「円高」というよりは「ドル安」と呼ぶべきかもしれない。通貨の価値はあくまでも相対的であるからだ。例として「ドル」「円」「ユーロ」の三通貨間の関係を考えてみる。

「ドル」「円」「ユーロ」の三通貨間の関係の例。
 「ドル」と「円」の二通貨間の関係だけなら、「円高」と「ドル安」はほぼ同じ意味になる。為替レートはあくまでも二通貨間の相対関係だからだ。しかし例としてここに「ユーロ」を加えた場合、少々事情が異なる。「円高」が進行して「ドル」と「ユーロ」がそのままなら、「ドル」「ユーロ」間に変化はない。しかし実際には「ドル」の価値が大幅に下落しており、「ドル」と他国通貨との価値が変動していると考えてよい。つまり「円高」ではなく「ドル安」に近い、というのが実情だ。図にあるように、「ドル」の相対価値が動いているので、「ドル」の対円・対ユーロで動きがあるが、「円」と「ユーロ」では力が均衡しているので為替レートに変わりは無い。

 実際には三通貨間どころか為替市場で交換可能な通貨の数だけ、相互関係は存在する。さらに直近の現状では「ドル」だけでなく「ユーロ」も大きく下落している。上の図式の関係でも「ドル」が「円」と「ユーロ」に引っ張られるというのではなく、「円」はそのままで「ドル」「ユーロ」の足元がぐらついて弾性のヒモの力で円側に引き寄せられているという形になっている(「ドル」「ユーロ」間ではやはり「ドル」側の下げの方が厳しい)。 なお直近では、ユーロ・ポンド共にドルに対しても下落している。
 直近の日本円は、米国ドルやユーロに対しては強いが、資源国であるカナダドルやオーストラリアドル、それに金融国スイスフランに対しては弱くなっていることにも留意する必要がある。


 「円高」そのものについて説明したあとは、いよいよメリットとデメリットについて。細かい部分を挙げればキリがないが、大体このような形にまとめられるだろうというものを箇条書きにしてみた。

◆円高になると……メリット。
1.安く原材料が海外から手に入る。
 「円高」は「円」の価値が上がること。原材料などの輸入価格が実質的に下落するため、日本国内における原材料費・生産コストが低下する。 特に鉄鋼や紙・パルプ、石油会社、電力会社など、輸入・国内消費型企業(内需型)の業績が上向く。「円」の相対価値が上がるので、海外での現地通貨における価格が同じでも、安い「日本円」価格で購入ができる。コストが下がるので利ざやが大きくなり、利益も増える。

2.円建ての株式や債券などの金融商品が買われる。
 「円」が上がるということは日本の貨幣的信用が高まることをも意味する。よって、金融資本市場で円建ての株式や債券などの金融商品が買われる。これは海外から日本に資金が集まってくることを意味する。

3.海外旅行で買い物がたくさんできる。
 海外で買い物をする時には現地通貨に交換しなければならないが、その時のレートが「円」にとっては都合が良いため、たくさんの買い物ができる。極端な例として、「1ドル200円」の時にアメリカ旅行へ1万円のお小遣いを持っていっても50ドルにしかならないが、「1ドル100円」の時になればお小遣いは倍増して100ドルになる。

4.一部製品や輸入品が安くなる
 わざわざ海外に行かなくとも、日本国内でも電力やガソリンなど輸入原材料から作られた製品や輸入品などが安く買える。最近スーパーやデパートで輸入品の「円高還元セール」が行われるようになったが、それが良い例だ。

5.輸入産業、内需型の株式が買われる
 「1.」の理由により、業績が良くなると推測される(あるいは実際によくなる)ので、関連銘柄に買いが集まり、値が上がる。業績の上向きとほぼ連動した形。

◆円高になると……デメリット。
1.輸出品の価格が上がり、輸出産業が不利になる。
 「円高」は海外通貨に対して「円」の価値が上がることを意味する。つまり日本国内で価格が同じでも、海外における日本の輸出品の価格は上昇してしまう。値段が上がるので、輸出品への現地での購買意欲が落ち込み、売上が減少。よって、自動車や精密機械に代表される輸出産業の業績が悪化する。 日本国内では同じ価格でも、相手国通貨との相対価値が上がれば、モノを輸出した時に相手国での販売で不利になる。

2.輸出産業の株式が売られる。
 「1.」の事情から、輸出関連産業の株式が(業績悪化懸念から)売られることになる。例えば【トヨタ自動車(7203)】の場合、対ドルレートで1円円高になると、年間400億円の営業損失が生じることになる。当然「業績が悪くなるだろう」と投資家からは思われるわけだ。

3.外貨貯蓄の人が損をする。
 金利が良いからと、外貨(外国債、外貨預金など)で蓄財してきた人も多いだろう。しかし最終的にそれらの運用資金は円に換えないと日本国内では使えない。その時、円高が進んでいると「たくさんの外国通貨を所有していても、少ない日本円にしかならない」という事態におちいることになる。

4.外国人旅行客が減る。
 「メリット」の「3.」と逆で、外国から日本に来る人にとっては、自国の通貨をたくさん持ってきても少しの日本円にしかならないので、旅行が辛くなる。外国人観光客を見込んでいる観光地にとっては一大問題である。

5.海外のファンドのリバランスで日本株が売られる。
 これは「2.」とは別の理由。一見すると「円高になるのだから日本の株の価値が上がって海外のファンドも喜ぶのでは」と思うだろう。確かに持株が上がること自身は嬉しいのだが、そうも言ってはいられない事情がファンド側にはある。 多くのファンドはリスクを回避するためにさまざまな方面の金融商品に投資をしている。そしてそれぞれの種類の割合は一定でなければならない(片寄ったらリスク回避の意味が無い)。
 円高進行で日本株の資産全体における割合が増え、バランスを戻すために日本株を売らなければならない。ちなみに日本株の資産評価額アップで価値が増えていることに留意。他国株式の資産「額」が減っているわけではない。
 円高になって海外のファンドにおける日本株の価値が高まった場合、崩れたバランスを調整するために一定量の日本株を手放す必要が生じてくる。ファンドが株を手放すということは、もちろん「売る」ことに他ならない。日本市場において外国人投資家の割合が多い昨今においては「2.輸出産業の株式が売られる」よりも影響は大きいかもしれない。
 

◆円高のデメリットを具体的な数字に
 それでは直近で問題視されている「円高」について、どれほど影響があるのだろうか。戦後の日本の産業構造は海外にモノを作って売る「外需型」のため、円高になると「損をする割合」は「得をする割合」よりも大きい。
−10%の円高が1年間続くとGDPは0.26%押し下げられる−
 内閣府経済社会総合研究所が2010年11月に試算した【短期日本経済マクロ計量モデル(2008年版)の構造と乗数分析】によると、仮に10%の「円安」に為替が継続して振れた場合、GDP(国内総生産)は1年目で+0.26%、2年目で+0.54%、3年目で+0.55%という値をはじき出している。ここから逆算すれば、逆に10%の「円高」に為替が継続して振れた場合、GDPは1年目で−0.26%、2年目で−0.54%、3年目で−0.55%と概算できる。

 為替の変動で大きな業績変移が起きるのを嫌気して、例えば自動車や電機メーカーなどは海外の主要販売市場国に生産拠点を移すところも出てきた。この場合、為替以外にも色々なメリット・デメリットが生じることになる。
 海外で多くのモノを売る企業の場合、現地で生産拠点を設ける場合もある。メリットはその国の通貨と日本円との為替差損をあまり考えなくてもよくなること。そしてさらに、「その国の雇用や経済に恩恵を与える」事も忘れてはならない。現地に工場を作れば多くのスタッフを現地で雇わねばならないし、さまざまな出費がその地域で行われるため、周辺の経済も潤うことになる。城下町ならぬ工場街が出来ることもあるだろう。

 過去に米国で起こったジャパンバッシングのプレートには「アメリカで自動車売りたきゃメリカで作れ、と全米自動車労働組合が言ってるぞ」と書かれていたが、日本はまさにその通りにしたことになる。 前世紀において「ジャパンバッシング」と称し、日本製電気製品や自動車をこれ見よがしにぶち壊して非難するという行動がアメリカにおいて多発した。これは「日本の製品は高性能で(円安ゆえに)アメリカでは安く販売されるので、自国の産業と経済が圧迫されて失業者も増えてしまう」という説明がなされていた。
 現在ではその傾向はほとんど見られない。ジェネラル・モーターズをはじめとするビッグ3が財政上大変なことになってトヨタに対する反感はあっても、「日本車が悪い」と叩き壊されるシーンなど見受けられない。これは、多くの自動車メーカーがアメリカに生産拠点を持ち、現地経済に少なからぬ恩恵を与えているからだ(そのような日本工場がある州出身の議員はビッグ3への支援も消極的だ)。
 無論これは、同時に日本国内で生まれるはずだった雇用や経済的恩恵を失うことも意味する。日本で内需拡大が進まなかったり、「景気が良い時も儲けを得るのは大企業ばかりで、国内経済や日本国民にはほとんど還元されない」という非難があるのも、このあたりを主要因とする。

 円高・円安をはじめとした為替レート、そしてこれまでに触れた金利や株価動向でも説明したことですべてというわけではない。とはいえ、「そうか、円高になると景気が悪くなるのか」「自国の通貨の価値が上がってなんで不景気になるんだろう」「でも分かんないから別にどうでもいいや」とスルーしてしまうより、その仕組みについて概要だけでも知っていたのとでは、きっと色々な面で自分の生活に違いが出てくるに違いない。



☆☆円高為替相場問題の上級編☆☆

2011年8月、円高が進行し、経済団体の要請で通貨当局による為替介入が予想される中、介入頼みを疑問視する声も出始めている。
 現在の円高は、日本の経常収支の黒字を対外投資で相殺しきれない構造が背景にあるが、欧州や米国の財政危機などにより対外投資は増加しにくく、円高圧力は容易に衰えそうにない。 政府はむしろ、場当たり的な介入ではなく、日本の稼ぐ力を示す経常黒字を背景に、円高メリットを産業に生かす政策展開が必要ではないか、との見方が出ている。

−日本頼みの国際資本−
 財務省の国際収支統計によると、震災後の2011年4,5月は貿易収支が赤字になったが、毎月1兆円を上回る規模で所得収支の黒字が続いた結果、経常収支としては4,5月累計で9963億円の黒字となった。資本収支も累計で9828億円の黒字だ。 つまり、経常収支黒字がもたらす円高圧力を日本からの資本流出(いわゆる海外投資)で相殺できていないばかりか、逆に資本が海外から日本へ流れ込んでおり、円高圧力を増幅する状況が続いている。

 こうした状況を打破して海外投資を盛り上げるには欧米債務問題の解決にメドをつけることが必要である。「しかし100年に一度の金融危機を財政政策で処理した結果、欧米の民間危機が財政危機にシフトしただけでレバレッジが修正されなかった」、「こうした大規模なバランスシート問題が1年や2年では解決不可能なことは、日本が経験済み」と、証券エコノミストたちは、日本から海外へのリスク投資の復活には時間がかかるとの見方を示した。

−円高の背景にある「稼ぐ力」−
 市場には現在の円高圧力がなお継続するとの観測が多い。海外の財政問題や景気動向をにらんだ短期的な思惑に加え、構造的に今の円高は日本の「稼ぐ力」を反映しているため、との見方もある。
 「ドルは底打ちしていず、まだまだ下がる。なぜなら世界市場で問われているのは、米国の稼ぐ力への信頼喪失だからだ」「25年以上経常黒字を維持し251兆円もの対外純資産を保有する日本と、莫大な赤字を垂れ流して世界最大の純債務国になった米国との比較では、米国がソブリンリスクに直結したのは当然」とエコノミスト。

 「米国は基軸通貨覇権国ということだけを拠り所にドルを増刷してきた。 米国の量的緩和第3弾(QE3)が現実味を帯びるが、対外的に稼げていないという点は一向に変わらない」と、ドルの下値リスクが継続すると予想する。 また「米国の経済対策は既に万策尽きた」「今後はQE3を背景とするドル安施策を通して、米国内のグローバル金融資本が国外で儲ける機会を担保していく方向になるだろう」との見方を示し、「ドル/円は、今後70円付近まで下落する」と述べた。

 米国はネットは対外債務国である。しかし、米国人や米国グローバル企業が海外に保有する資産のみ取り上げれば、2010年末には20.32兆ドルもあり、2009年の18.49兆ドルからさらに約10%も増加している。「米国金融資本はまだまだ強い。ドル安は米輸出企業の国際競争力を向上させるが、米国の製造業がドル安で受けるメリットは金融資本のメリットに比べて小さい」ということだ。
 米国GDPの2011年1-3月期伸び率は1.9%から0.4%に大幅下方修正され、また4-6月期GDPは前期比年率1.3%増で予想を下回った。 これにはエネルギーや食料品高による購買力低下と自動車販売低迷など個人消費の失速が響いた。


−円高メリット生かす必要−
 「日本は貴重な資金を使って為替操作するより、円高のメリットを国民生活に生かす道を考えた方が生産的」とエコノミスト氏は言う。

 東日本大震災と原発事故を受け、日本のエネルギー政策の軸足はこれまでの原子力から火力発電などへのシフトする。ドル建ての日本の貿易の割合は、輸出よりも輸入の方が多く、ドル安による輸出ロスよりも輸入の利得が大きい。6月通関統計ではドル安のデメリットを受ける米国向け輸出は8600億円であったのに対し、ドル安/円高のメリットを受ける鉱物性燃料の輸入は1兆7000億円余りで、米国向け輸出の2倍に相当した。そこで、「この円高は電力コストを抑制し、ひいては電力料金の値上げを抑制するうえで大きな援軍と思う」との見方が出てくる。
 「足元の急な円高は確かに厳しいが、今後は復興需要で立ち上がる内需に加えて、放射能の影響で国内供給減となる農水畜産物の輸入拡大も見込まれるので、円高メリットを十分に享受できるはず」と証券企業のエコノミストも言う。ラ○○ン株式会社も、「当社にとって円高は原材料購入でプラスの影響の方が大きい」と述べている。

−ドル買い介入の資金−
 為替市場では、経団連等の要求で、再び政府日銀がドル買い円売りの市場介入するとの見方が強い。しかし「介入しても、大規模持続的なものにはならず、効果は限定的」との意見が大勢で、介入は資金無駄遣いに終わる可能性が強い。

 日本が1兆1378億ドル(2011年6月末)という額の外貨準備を保有するようになったのは度重なる為替市場介入(主にドル買い円売り)によるものだが、ドル買いの資金は外国為替資金証券を発行して調達している。同証券の残高はドル買い介入の額に呼応して増加し、3月末で109兆3130億円にのぼった。
 つまり、外貨準備というドル建て資産の裏には外国為替資金証券という円建ての負債があり、ドル安で資産が減価すれば債務超過に陥ることになる。「ドルやドル建て資産の急落という事態を想定すれば、債務超過に陥るリスクがある。そうなった場合はその負債を、将来的に国民負担すなわち税金で償却するしかないことになる」。

                −以上−
2011年8月21日
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