いよいよ日本もインフレターゲット政策を導入。日銀が方針転換2012年度から物価上昇目標1 %を設定。経済界は円安歓迎もインフレ暴走の懸念も。 /// 中国経済の懸念材料は欧州債務危機による輸出減少と人口ボーナス消失。中国の労働人口は2015年がピークでその後は少子高齢化

「いよいよ日本もインフレターゲット政策を導入。日銀が方針転換2012年度から物価上昇目標1%を設定。経済界は円安歓迎もインフレ暴走の懸念も」


 日銀は2012年2月14日の金融政策決定会合で、10兆円規模の追加金融緩和の実施と、金融政策で目指す望ましい物価水準として「物価安定のめど」の導入を決めた。具体的な水準では、消費者物価の前年比上昇率で当面1%を目指すと表明した。決定会合後の記者会見で日銀総裁は、新たに設けた物価安定のめどについて「日銀の枠組みは米連邦準備制度理事会(FRB)の枠組みに近い」と説明、FRBが1月に採用した長期的な物価目標と同じ位置付けになるとの見解を示した。

 追加金融緩和は2011年10月以来、3カ月半ぶりである。政府日銀は、長期国債の購入枠を10兆円増やして金融資産を買い入れる「基金」の規模を65兆円程度に拡大した。会合では、政策金利を年0〜0.1%とする事実上のゼロ金利政策の継続も決めた。

 日銀は、「物価が下がり続けるデフレ脱却と物価安定のもとでの成長に向けた姿勢をさらに明確化する」として、新たな中長期的な物価安定のめどを決めた。当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるまで実質的なゼロ金利政策で金融緩和を推進する。年に物価1%上昇が事実上の金融政策の目標であることも明記した。

 日銀は現在、政策金利(金融機関同士が無担保でお金を貸し借りして翌日返済する際の金利)の誘導目標を年0〜0.1%とする事実上のゼロ金利政策を採用している。ゼロ金利政策は、企業や個人が低金利でお金を借りやすい環境を続け、経済が活発になってモノが売れることで物価が上がるよう促す。
 しかし、日銀総裁は10兆円の基金増額による追加緩和を決定したことについて、最近の前向きな動きを支援し景気回復を確実にするためと説明し、新たに導入した「物価安定の目途」とあわせ、デフレ脱却と持続成長の実現に向けて日銀の姿勢を明確化した。米連邦準備理事会(FRB)が先に公表した物価安定の考え方をインフレターゲットと呼ぶのであれば、今回の日銀の枠組みはFRBの言うインフレターゲットに近い。
 さらに、追加緩和により基金による月間の国債買い入れ額が従来の3倍に膨らむが、これが財政支援と受け止められれば長期金利が上昇して金融市場が不安定化するとの懸念を示し、今後の日銀の大規模な国債買い入れは財政ファイナンスではないと強調した。

 実は、2012年1月25日米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRB(連邦準備制度)は2%のインフレ目標を導入した。日銀はこれまで国会議員などに対して、「日銀がインフレ目標をとっていない理由のひとつは、FRBもやっていないからだ」、と説明をしてきたが、外堀が埋められた形となっていた。
 欧州中央銀行(ECB)が、金融機関救済のために2011年末から期間3年と異例の長期資金を供給し、事実上の量的緩和政策に踏み込むなど、米欧が金融緩和を進めるなかで、日銀が緩和を更に強化する余波については、「先進国の金融緩和が他国へ波及しその結果として自国にフィードバックする点を考える必要がある」、とも述べた。
 今回の追加緩和で日銀による長期国債の買い入れ速度が大幅に加速し、国債発行残高に占める日銀の比重が高まる点については、「中央銀行のプレゼンスが大きくなると市場の価格形成がゆがむと意識している」 と話した。また、コマーシャルペーパー(CP)・社債などリスク性資産の買い入れ額を増やさなかった理由は、「企業の資金調達が円滑で、日銀がリスク資産を買う状況ではない」と説明した。

 日銀が金融政策で目指す物価上昇率を1%とする考えを明確にしたうえで、実現のために資産買い入れ基金の10兆円増額に踏み切ったことに対し、政府内からは、デフレ脱却への強い意志の表れと評価する声が相次いだ。財務省からも 「インフレターゲットなど邪道と言っていた日銀も今度は相当思い切った」と評価の声があがった。日銀決定後に会見した財務相は、日銀が「金融政策で目指す物価上昇率を明確にした」ことを評価し、合わせて実現に向けた具体的措置を決断したことを「強い決意の表れ」と高く評価した。
 実は、 政府は消費税増税10%を目論んでいるがそれだけでは財政再建には全く不足と計算しており、増税とともに年率2-3%程度のインフレも覚悟しなければ積もり積もった日本の財政赤字は解決できないというのが本心だ。日銀も、政府の圧力ですでにFRB並みの2%インフレを覚悟させられているとの情報もある。

 一方では、予算編成・国債発行に全面的に責任を持つ政府財務省は、予算編成ができなくなる国債価格暴落や国債利回り上昇などは何としても避けたい。このたび1%であれインフレターゲット政策を政府が認めたとなると、日本国債価格低下や大幅インフレへのハードランディングを引き起こしかねないと危惧している。 そのため財務省は、円安に誘導して景気浮揚させて消費税増税はやりやすくなるが、国債価格下落は引き起こさないと予測する2−3%インフレターゲットへのソフトランディング着地点を必死で探ぐっている。最近、政府財務省は「実質2%、名目3%経済成長」という表現をしているが、このラクダがやっと通れる狭くて細い針の穴への迷路を探し出せるかどうかに日本経済の将来はかかっている。 

 「実質2%、名目3%経済成長」というのは、微妙な表現である。これが実質且つ名目という意味ならばインフレ率1%ということである。実質もしくは名目という意味ならばインフレ率3%で目標達成できる。実際のところ、実質2%成長は日本の人口減も考慮すると一人当たり3%経済成長させなくてはならないから達成不可能である。一方、名目3%成長だけで良いのならば、インフレターゲット3%で容易に達成できる。 しかし、これは10年後には国債の価値が3割減になることを意味している。国債だけでなく預貯金の価値も3割減になる。例えば、あなたの1000万円の預貯金は10年後には700万円の価値しかなくなるということだから、預貯金を取り崩す老後生活を考えている庶民にとっては一大事だ。20年後には300万円の価値しかなくなるのだ。


 
民主党首脳は、「今回の日銀の政策決定には一定の評価をするが、持続性・継続性とともに結果が求められる点で注視していく。」と、結果責任を強調した。与野党ともに、円高防止だけでなく将来の国債依存を減らすためにはインフレターゲットは欧米並みの2-3%が望ましいと内心は思っている。今回の緩和策を実施しても、1ドル75円の歴史的水準まで円高が加速するようなら、政府・与野党の日銀包囲網が再び再燃するかもしれない。ここしばらくは、インフレが日銀数値目標の1%で納まるかどうか、神経質な駆け引きがあるはずだ。 私としては、結局のところ近い将来に、名目3%経済成長はインフレ率3%にすり替わってしまうような予感がしている。
 
 2012年2月時点では欧州の債務問題は収束の兆しはみえず、最悪の場合ギリシャがデフォルトやユーロ離脱に陥るリスクや、欧州金融機関の相次ぐ格下げなどによる経営問題、アジアからの資金引き揚げの加速による世界的な景気減速など、日本の金融政策の出番はこれからが本番である。

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「中国経済の懸念材料は欧州債務危機による輸出減少と人口ボーナス消失。中国の労働力人口は2015年がピーク」


 国際通貨基金(IMF)が2012年2月6日、中国の2012年GDP成長率に関して4%台に低下するかもしれないとの予測を発表した。これは、欧州債務危機の深刻化による世界経済への打撃が最悪の場合を想定しているが、それだけではなく急速な高齢化に伴う中国経済の構造変化で潜在成長力の低下リスクが増大している可能性もある。都市化の経済効果を過大評価し、潜在成長率の低下リスクを無視して財政出動で生産力を増大させれば、その先に大きな需給ギャップと長期不況が待ち受けている怖れもある。

 日本経済も1973年までの17年間の実質GDP成長率は平均で9.1%だった。しかし、第一次石油危機を契機に高成長に戻ることはなく、1974年から1990年までの平均成長率は4.2%に低下した。 当時の政策当局はそのことに気付くのが遅れ、大規模な財政出動を繰り返して活発な公共事業ばらまきで景気を刺激したものの、過剰な生産設備を増設するだけの結果となった。中国が、日本の過去の経済政策を勉強して他山の石とするだろうことは、中国との関係を深める日本経済の先行きを考える上でも有益なことである。

 ところで、日本での報道の扱いは地味であったが、中国GDPが4%台に低下するとしたIMFの中国経済見通しは衝撃的である。確かに発表された基本的シナリオでは、2012年中国経済の成長率見通しをそれまでの9.0%から8.2%に低下させただけだった。だが、ユーロ圏の債務危機悪化などで世界経済が悪化した場合の最悪シナリオでは、中国の成長見通しが8.2%のからさらに4%に下がると試算を出した。

 もし、中国経済成長率4%台が現実になれば、世界経済全体の減速感が一段と増大するだけでなく、日本にとっても対中輸出が急減し、自らの成長エンジンが止まりかねない。中国工業情報省も、2012年の中国の鉱工業生産の伸び率が前年比で+11%と前年の+13.9%から減速するとの見通しを発表している。現在の欧州情勢を踏まえた中国当局の見通しをもってしても、生産の減速傾向がはっきりしたと言える。欧州危機の深刻化が鮮明になれば、IMFのリスクシナリオの現実性も高まることになる。

 IMFは下方シナリオが現実化した場合、消費税減税や消費者への助成、企業投資の拡大促進策、中小企業への財政支援、低価格住宅への歳出拡大などの政策パッケージで国内経済を刺激するべきだと主張している。そのようにすれば国内総生産(GDP)を3%押し上げることになると推計している。だが、中国経済の潜在成長率に陰りが出ているなら、単純に財政出動で生産を拡大させる政策は将来に禍根を残す。 なぜならば、中国経済の制約要因として挙げられているのが、急速に進む人口の高齢化だ。国連の予測によると、中国の生産年齢(労働)人口は、2015年に10億人でピークを迎え、その後は緩やかに減少していく。
 中国の生産年齢(労働)人口は、1980年の6億人から2010年に9・7億人へと3億7000万人も増加した。これまでは豊富な労働力によって高成長が享受できるいわゆる人口ボーナスの恩恵をフルに受けてきた。なお、人口ボーナスとは15−64歳までの労働人口がそれ以外の年齢人口よりも2倍以上いる経済的に成長可能な時期のことであるが、ここでは、一国の労働人口が減少し経済抑制される時期をイメージすることにする。 中国全体の都市化による製品需要の増大もあって中国経済高成長の原動力になってきたが、労働人口の減少により「人口ボーナス」の利点は2015年で無くなってしまう。中国経済の老化が忍び寄っているのだ。
 最近、60歳以上の高齢者人口が2013年に2億人を突破する事を中国当局自身も認めた。 すなわち2013年中には中国人口の15%が高齢者となり、一人っ子政策の後遺症もあって今後急速に老化が進む。これは中国にとっては由々しき問題となるため、一人っ子政策を中止しようかという議論も成されているくらいだ。

 もし、老化によって潜在成長率の低下が起きていると、外的なショックへの抵抗力は損なわれる。中国の場合、輸出全体の20%以上を占める欧州への輸出が急減すると、一部の輸出企業は資金繰りが悪化し不況が深刻化しかねない。 実際、中国の造船業界は2011年に新規受注が大幅に減少し、受注件数ゼロという造船会社もあるという。 外的なショックを緩和するために、大規模な財政出動を実施すれば、国内の景気落ち込みを一時的に防ぐことはできる。しかし、もし増設した設備がフル稼働し生産力が高まったとしても、それを吸収する国内需要を維持できるかは不透明だ。

 日本が経験した成長率低下については、当初、第一次石油危機による所得流出が原因であり、石油価格が落ち着けば高度成長の時代に回帰できるとする楽観的な見方もあった。しかし黄金の1960年代の半分に低下した成長率は、二度と元には戻らなかった。その背景には、生産労働人口の伸び率低下もあったはずだ。

 中国が低成長国になると予測する人は現状では皆無に近い。しかし中国の8-9%の高成長率が、4-5%になる時期がそう遠くない時期に到来する可能性は大きい。その時期が欧州債務危機の悪化で前倒しされる可能性も無いとは言えず、IMFの試算結果を一笑に付すことはできない。
 日本企業の中国への投資計画は、足早にやってくる中国の高齢化や人口減少の影響を抜きにしては語れないだろう。 IMFの今回の発表は、日本の企業経営者や市場関係者が、日本経済の先行きリスクに備え、ショックを乗り切る対策を議論するための貴重な材料である。



-既出の再掲(参考)-

 各国には労働力人口(全人口における生産年齢人口の割合)が増え、うまくこの波をとらえれば経済が高度成する時期が一度はある。いわゆる人口ボーナス(この定義は、15−64歳の労働生産人口がそれ以外の人口の2倍以上の時期を言う)時期だ。例えば、日本の人口ボーナス時期は1960−1990年であり、この30年間に日本は高度経済成長したが、1995年には労働力人口が減少に転じ、そのあと人口オーナスに突入した。そのせいもあり、それ以降、日本は長期経済停滞期に入った。
 外国でいうと、中国や韓国は2015年、インドネシアなどの東南アジア諸国は2020年、ブラジルは2030年、インドは2040年頃に労働力人口が減少しはじめ、それから5-10年ほど遅れて老齢人口が国の経済的負担になる人口オーナス時期に突入する。一方、米国は移民が増えているから人口オーナスには突入しない

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2012年2月16日
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