文部科学省は2012年6月に入試制度改革や国立大学再編成などを盛り込んだ衝撃的な大学改革実行プランを公表した。この革新的プランは平成24年度から実行を開始し平成29年度までの次期教育振興基本計画5年間で着実に実施するとしており、中央教育審議会も今後を注目。
 文部科学省は、2012年6月に入試制度の改革や国立大学の再編成などを盛り込んだ「大学改革実行プラン」を公表した。平成24年度から実行開始し平成29年度までの次期教育振興基本計画期間5年間で計画的に取り組むとしている
 「大学改革実行プラン」は、「激しく変化する社会における大学の機能再構築」と「大学ガバナンスの充実・強化」の2つの大きな柱のもと、それぞれを実現するための8つの基本的な方向性からなる。

 ひとつめの柱である「激しく変化する社会における大学の機能の再構築」については、
第一の方向性「大学教育の質的転換、大学入試改革」として、学生の学修時間を飛躍的に増加させ、主体的な学びを拡大していくための教育方法への転換や環境の整備が必要だとしている。また、高校教育の質の保証とともに、意欲・能力・適性などを多面的・総合的に評価する入試への転換を促進していくとしている。
 第二の方向性「グローバル化に対応した人材育成」では、拠点となる大学をつくり、留学生を双方向で交流させて国際化を進めていくことや、入試におけるTOEFLやTOEICの活用、英語授業の倍増、秋入学への対応といったシステムのグローバル化などが盛り込まれている。
 また、社会・産業・行政との連携を強化し、大学を地域再生の核として機能させていく「COC(Center of Community)構想」、研究開発のシステム改革と支援を強化する「研究力強化:世界的な研究成果とイノベーションの創出」が、第三・第四の方向性として挙げられている。

 2つ目の柱である「大学のガバナンスの充実・強化」については、
「国立大学改革」として、すべての国立大学のミッションを再定義し、改革の方向性を明確化する「国立大学改革プラン」を策定・実行していくことや、「リサーチ・ユニバーシティ」群の強化や機能別・地域別の大学群の形成など、大学の枠・学部の枠を越えた再編成などが挙げられている。
 また、大学情報の公表の徹底や質保証の支援のための新たな行政法人の創設など「大学改革を促すシステム・基盤整備」、私立大学の質の促進・向上を目指して助成の改善や充実を図る「財政基盤の確立とメリハリある資金配分の実施」、教学・経営の両面からトータル的なシステムを確立させていく「大学の質保証の徹底推進」が、方向性として挙げられている。

 これらの大学改革実行プランについては今年度から直ちに実施していくものとし、平成24年度は、「改革始動期」として、国民的議論・先行的着手、必要な制度・仕組みの検討にあて、平成25-26年度を「改革集中実行期」、平成27-29年度は評価・検証や発展期としたPDCAサイクルを展開していくとしている。


★それに先立ち
 平野文部科学大臣が2012年6月4日の国家戦略会議に「社会の期待に応える教育改革の推進」の方針を提示し、翌日には高井副大臣らが「大学改革実行プラン」として詳細を発表した。事前の報道でも高校2年卒業や国立大学の「集約」案が大きく取り上げられた。このプランの関係者に与える「衝撃」は想像以上に大きい。

 「衝撃」にはさまざまな意味合いがある。まず、教育関係者への衝撃である。内容もさることながら、何より中央教育審議会で第2期教育振興基本計画に向けたさまざまな改革が議論されているさなかの突然の提案だった。 6月7日に行われた中教審大学教育部会では当然、委員から「我々が一度も議論しないうちに決まったのか」と非難の声が相次ぎ、文科省事務当局は「表現は適切さを欠いた」「検討したいということを書かせてもらった」、などと弁明に追われた。
 同プランは、副大臣の下に置かれた「大学改革タスクフォース」で、省内関係者により検討された。2011年11月の政策提言仕分けや年末の財務省との折衝で大学改革が論議になったことを受け、2012年4月には戦略会議民間議員から提言があった。今回のプランはその答えとして急きょまとめられたもので、同省の「方針」としてオーソライズされたものではない。今後、個別の案件が中教審や協力者会議などに諮られていくことになる。

 同プランが衝撃的だったのは、これが民主党閣僚の空論や思い付きから出たものではなくて、大学教育制度の危機感から構想されていることだ。 「大学入試の改革」がいい例で、1点刻みではないセンター試験の資格試験的活用や、「クリティカル・シンキング」の共通テストは、実は前から論議のあったことで、教育に関心のある人ならば喫緊の課題であった。 先の中教審部会でも、異論を唱える委員からさえ「後回しせずに、案を作ったことは評価したい」との評が漏れた。
 新規の国家戦略を打ち出したい内閣、財政削減をしたい財務省、統廃合を含めた大胆な大学改革を求めたい戦略会議民間議員などとの緊張関係にあって、政務三役と事務当局が総力を挙げた試案としては、このプランはたたき台としては十分通用しよう。
 2012年の大津中学校生徒のいじめ自殺に端を発した、文科省学校当局や教育委員会への国民の不信も、この大学改革実行プランを後押しするかもしれない。

 「大学改革実行プラン」細部には、異論や疑問がある。高校早期卒業制度は高校教育とは何かの根本理念を揺るがすものであり、中退扱いとなる飛び入学制度とは決定的に違う。また、高校類型化への疑問もある。 実際には、大学の入学・卒業時期の弾力化も各大学の判断と責任で行えば済む話かもしれない。 しかし、はっきりしているのは、これまでの教育行政に対する国民の不満であり、これが教育行政改革を後押ししていることである。
 実のところ民主党政権は、消費税増税や沖縄米軍基地問題、TPP問題、原発再稼働、尖閣諸島問題など、問題が山積しており、ごたごたで離党者も相次ぎ、いつ政権が倒れてもおかしくないボロボロ状態である。そのなかにあって、今回スピード感を持って民主党閣僚からの「大学改革実行プラン」の検討と提言が行われたことを過小評価してはならない。
 仮に消費税増税採決後の早い時期に政権交代があったとしても、今後、中教審などで個別の検討が始まればプランの方向は審議課題として残る。 これは、いかなる政権であっても解決すべき課題であるからである。
                -以上-
2012年7月19日
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