米国では与野党協議がまとまらなかったため、2013年3月1日、全分野事業の一律削減策(いわゆる財政の崖)を発動して10年間で1・2兆ドルを歳出削減する緊縮策が自動スタートすることになった共和党は民生予算削減、民主党は軍事予算削減を主張して譲らず。 暫定的な公務員給与は確保してあるが2ヶ月後には職員削減が現実味を帯びる。
 
アメリカの地方自治体でもデトロイトは財政破産の危機。 ユーロもギリシャ、スペイン、ポルトガルに加えてイタリア、キプロスでも緊縮財政への不満がくすぶり、発火寸前。 中国ではPM2.5の環境汚染問題勃発とともに、財政出動によって不動産バブルが復活。 

米国は3月1日、連邦政府の全分野における一律的な歳出削減を開始する。米政府の財政赤字は2001年の9・11以後、ブッシュ政権の財政の大盤振る舞いによって増え続け、2008年のリーマン危機後に公的資金で景気テコ入れ策をやったため、赤字増に拍車がかかった。当時、オバマ大統領と米議会は赤字削減の必要性で合意したものの、どの分野の歳出を削るかで対立を解消できないまま交渉期限の2011年夏がすぎ、2011年8月にS&Pが米国債を格下げした。
 米2大政党は財政再建議論を仕切り直すことにしたが、民主党は防衛費削減に積極的で社会保障費削減に反対、共和党は逆に社会保障費削減に積極的で防衛費削減に反対で、2大政党間の対立が解けないまま議論が平行線をたどりそうだった。そこで両党は、2012年末(昨年末)までに議論に結論を出せない場合、罰則として2013年(今年)1月に全分野の一律削減策(財政の崖)を自動的に発動し、10年間で1・2兆ドルを強制的に歳出削減する条項を制定したうえで緊縮議論を開始した。(当時、罰則条項を発案した大統領府の予算担当者だったジャック・ルーが、近く財務長官に就任する予定)
 結局、その後も2大政党は財政議論で対立を解消できず、平行線のままだった。一律削減の自動的な開始を目前にした2012年末、米議会は、一律削減策の発動を2カ月延期する法律を可決し、削減の開始を3月1日に延期して議論を継続することにした。 しかし、その後も議論は進展せず、削減発動の再延期も決めることができずに、3月1日に予定通り初年度分として850億ドルの一律削減策が発動されることになった。

米国には「これまで何回も一律削減が発動されると言われ、そのたびに土壇場で発動が延期されてきた。今回もまた延期だろう」と高をくくった見方がある。だが今回は土壇場になっても何の回避策も出てこなかった。 削減は発動されると有力議員が言っているが、今回は発動が決定的だ
 歳出一律削減の罰則を定めた2011年の米財政管理法は、米連邦政府のすべての事業、すべての分野について、例外なく一律に支出を削減することを命じている。 米国の行政は、連邦政府が運営している部門、連邦政府から渡された資金で地方政府(州や市など)が運営している部門、地方政府が独自に運営している部門が混在しており、今回は連邦政府の歳出削減だ。部門ごとに財政状況が異なるので、一律削減の影響がどこにどんな風に出るか、全体像がつかみにくい。
 公務員の解雇や一時帰休、ゴミ回収頻度の低下、空港の荷物検査の行列の長さの倍増、失業手当の減額などが予想される。 連邦政府からもらう資金に頼る傾向が強いワシントンDCやハワイ、アラスカは一律削減の悪影響が大きく、いっぽう、州独自の歳入が多いニューヨークやミネソタは悪影響が小さいと言われている。 デトロイトは実質破産状態と聞く。

米国では貧富格差が拡大し続け、中産階級が失業して貧困層に没落する流れだが、一般に貧しい人々ほど公的資金による扶助に頼って生活する度合いが大きく、歳出削減は貧困層にとって最も厳しい悪影響をもたらす。 今後貧困層が増える一方で歳出削減で公的扶助が減っていくと、貧困層の不満が拡大し、銃器を使った犯罪や反政府決起などが広がるかもしれない。
 一律削減は、米経済の成長を0・4-0・6%減速させると予測されている。 成長鈍化は、株価など金融市場に悪影響を与えるはずだが、米国の株価は年初来、上昇傾向を続けている。これを見て「一律削減は米経済にほとんど悪影響を及ぼさない」といった分析が出回っている。 
 しかし、リーマン危機後の米金融市場を上向かせている最大の要因は、米連銀が量的緩和策で金あまり状態にし、資金が株や債券に流れ込むよう仕向けているためだ。 実体経済はもう金融市場にあまり影響を与えなくなっている。 リーマン危機後、米国の実体経済は政府の景気テコ入れ策(歳出増)に支えられてきた。 歳出一律削減は米国民の消費を減退させ、米経済の大事な支えを減らす。 一律削減は実質的に米経済を悪化させるがそれは株価に反映されず、それを良いことに欧米金融マスコミは「一律削減の米経済への影響は軽微」「米経済は引き続き回復基調」と報じ続けるだろう。



◎米国は軍事費削減の方向へ。これが米国の世界軍事戦略にどうひびくか
 政治面で一律削減の影響が最も出そうなのは、軍事費(防衛費)の策減である。 一律削減策は軍事費が半分で、他の分野(主に社会保障費)が残りの半分となっており、軍事費は10年で6千億ドル削られる(共和党が軍事費減に反対し、民主党が社会保障費減に反対するので、両者半額ずつの一律削減になっている)。 国防総省は人件費を削るため、制服組以外の80万人の文民職員に対し、毎週1日ずつ無給の自宅待機をとらせる制度を5カ月間続けることを決めた。
 国防総省を動かす軍産複合体にとって重要なのは、職員の給与よりも軍事産業に対する装備発注だが、その分野の削減も大きい。一律削減を前に、2013年1月の防衛機器の発注額は前年同月の70%減と急減している。米国の軍事費は911以降急増しており、一律削減で支出を減らしても、軍事費が6年前の2007年の水準に戻るにすぎないが、発注額7割減の軍事産業に対する悪影響は大きい。 沖縄米軍のグアム移転についても影響が出そうだ。

米政界では1950年代から軍産複合体の力が強く、これまで多くの政権が軍事費削減をめざしたが成功せず、逆に軍事費を急増させてきた。米国の民主党議員らの間では、「軍事費を削るには、弊害を承知で自動発動される一律削減に頼るしかなかった」 という見方が強い。
 米国では2013年以後、軍事費の削減だけでなく、軍事費削減を理由とした世界からの軍事的・政治的な撤退が強まりそうだ。 国際問題を軍事でなく外交で解決すべきだと主張し、オバマから次期次期国防長官に指名されたチャック・ヘーゲル元上院議員が、2月27日に米上院でようやく人事承認されたことが、そのことを予感させる。 軍産複合体やイスラエル右派系の議員らは、ヘーゲルの国防長官就任に強く反対したが、就任を阻止できなかった。 この件と、3月1日からの軍事費を含む一律削減策を合わせて考えると、今後米国が進む方向が見えてくる。
 2013年2月27日、中央アジアのカザフスタンで開かれていた米英仏中露独(P5+1)とイランとの核問題協議では、米国側はこれまで 「フォルド核施設を破棄し、濃縮したウランを引き渡せば、経済制裁を解除しても良い」 と言って、イラン側から拒否されていたが、このたび譲歩して 「フォルド核施設を破棄しなくても、施設内のウラン濃縮工程を停止すれば、経済制裁を解く。 濃縮したウランもイラン側が持っていて良い」 という、大甘な新条件を出した。 イランはこの提案を評価しているが、まだそれでは呑めないと言っている。 だが今回の提案はこれまで考えられなかったイランに有利な展開であるのは確かだ。 これを見て、イランを脅威と考えているイスラエル政府が、「イラン問題を解決するのは、もはや軍事しかない。 もしも3月までにイランの核施設爆撃ができなければ手遅れになる」 と言い出している点も、逆に、オバマの説得により外交交渉でイラン問題が解決することを感じさせる。 もし今後イラン問題が解決していくとしたら、米国の軍事費削減、ヘーゲルの国防長官就任、アフガニスタン(イランの隣国)からの米欧軍の撤退などと合わせて、軍事重視が退潮し、外交重視に世界全体が転換してゆくことである。

 欧州もギリシャ、スペイン、ポルトガルに加えて、イタリアでも緊縮財政への不満が燻る。イタリアの次は、キプロスの経済緊縮策がが発火寸前だ。さらにキプロスのロシアマネーロンダリング疑惑まで出てきた。 このようにEUはリーマンショックを一応取り繕ったが、それ以後も各国の不満がくすぶり続けている。 これほど次々と問題が起こるのでは、世紀の大実験であったユーロ経済統合は失敗だったのではないかという話だ。 実はEUの組織は、日本の地方分権問題と置き換えてみれば理解しやすい。 東京がドイツで、フランスが関西、残りの国が地方自治体に相当する。 日本では、政治と経済インフラを東京に集中させて税収も一極集中する代わりに地方自治体に地方交付税を配布することで、地方政治も支配制御している。 一方、EUは経済統合したが政治統合していないために、経済収入の再配分機能も十分ではないし、政治の一極管理もできていない。 こういう中途半端な統合では、米国経済の崖などによる大きな経済グローバルショックに再び見舞われた場合、EUの機能は再起不能に陥るのではないか。 EUのもう一方の旗頭であるフランスは、経済力が不足して最近とみにEU内での発言力を弱めている。 結局のところEUは、将来ドイツが政治支配する方向に行きつつあるように見える。
 しかしドイツ主導で、EU経営がうまく行くとは思えない。 
同一民族・文化の日本でさえも東京一極集中に対する不満は大きく、将来の地方分権化は避けて通れない状況にあるところだ。  最近、ロシアや中国は、ユーロ共同体としてよりもヨーロッパ各国と個別交渉を行う傾向を深めている。キプロス問題でロシアに不利な再建策が出されれば、ロシアのEU離れは決定的だ。また英国はドイツ主導のEUに冷ややかだ。
 
そんな中、EUとしては米国主導のTPPが気になっており、EU一体化のためにも日欧EPA経済協定の協議入りを急ぐことになろうが、その協議では日本によるEU支援も議題になろう。 なぜならば、EUの貿易相手国の中国もEU経済支援のリップサービスはしても、最近の経済成長不振のためにさらなる援助増額は難しそうだからだ。

-----------東アジア地域への影響-----------
 一方、東アジアに目を向けると、韓国では北朝鮮と交渉を進めたい朴槿恵が大統領に就任した。 朴大統領は、封じ込めでない北朝鮮政策をやりたいと選挙期間中から言っていたが、米国はそれに反対しないということだ。 米国側は北朝鮮が強行したミサイルや核実験に怒っているが、「朴大統領が北朝鮮を封じ込めたいなら米国はそれを支持するし、中国とともに北朝鮮と交渉したいならば米国も一緒に交渉する。」とお任せであり、北朝鮮への経済制裁については中国の尻をたたいて中国頼りの姿勢だ。 米国は、中国寄りの朴韓国が本当に米国と同盟してゆく気があるのかどうか値踏みしている感がある。
 北朝鮮のほうは、ミサイル・核実験への国連制裁決議に対して、中国がアメリカ側に歩み寄り賛成したのに腹を立てて、中国を非難している。 北朝鮮はそもそも、「朝鮮戦争では中国とは血の反米同盟を結んだのに、中国は資本主義に汚染された国家になって堕落した。 共産主義本家はこちらなのに、中国はちょっと金回りが良くなったからと言って偉そうにするな」 という気持ちがあるのだ。 東アジア地域は今、中国、北朝鮮、韓国、日本、台湾、それにアメリカのそれぞれの思惑が入り乱れて、政治的に訳が分からない混沌状況になっている。 ここから新しい政治秩序が生まれてくるのだろうか?

 韓国では、朴大統領は当選後、韓国の通商政策を担当する部署を約10年ぶりに外務省から産業通商資源省に戻した。 韓国では外務省は親米色が強いため米韓FTAを進めたが、韓国産業通商資源省は自国産業を保護する姿勢が強く、米韓FTAは今後停滞するかも知れない。 また韓国はTPPに関心は寄せるものの参加はせず、中国などと一緒に東アジア共同体(RCEP)を重視する方向に進むだろう。 日韓中FTAについても、韓国は協議はするものの最大貿易輸出相手の中国の動向に左右されることになろう。

 安倍首相訪米の際には、オバマ大統領は尖閣問題でも日本との軍事同盟を守ることを強調したが、「中国を刺激せず尖閣で突発衝突を起こさないでほしい。それでなくても、米国は財政の崖問題や、イランや北朝鮮の核問題、アフガン撤退、シリア内戦で手一杯なんだ」 と言いたいのが見え見えであった。 そこで安倍首相は尖閣防衛は日本独力で行うことをオバマ大統領に宣言し、日本の自制にもかかわらず尖閣諸島で衝突が起きた場合には日米には軍事同盟があることをオバマに再度念押しして、満足した。
 日米経済面においては、米国としては、中国主導のRCEP経済協定に対抗するためTPPに何としてでも日本を引き入れたいと思っている。 安倍政権も尖閣問題で米国に軍事依存しているので、米国主導のTPPに参加する事は既定事実だ。


 中国も、環境汚染問題勃発や昨年の財政出動による不動産バブル復活で困難が増大しており、2013年度のEUでの経済不振も予測されることから、GDP8%越えはまたもや困難となった。 さらに周辺国とのトラブルも中国の重荷になっているが、中国国民に周辺領土等核心的問題では断固として譲歩しないと大見得を切ったために、コブシの下ろしようが難しい。 とは云いながら、さすがの中国も4月に入れば日本の尖閣領有問題と経済交流とは分けて取り扱い、経済や環境対策を重点に位置付けるようになって行くと推測する。

-------------中国への対処-------------
 私自身は、日本としては経済交流面でも中国とこれ以上深くなることは避けるべきと考えている。1国との貿易量が全貿易量の3割を超えると、支配関係が進展する危険性があるからだ(例えば、中国に対する北朝鮮(7割依存)や韓国(3割依存)などのように、輸出量が多い国が輸入量が多い国に対して立場が弱くなる)。 日本の対中国貿易依存率は2.5割でもはや危険水域だ。 であるから、中国が貿易相手としていくら魅力があっても、電気製品販売や自動車販売促進、はたまた中国観光客確保のために、日本が中国と尖閣問題で拙速に妥協する必要は全く無い。
 経済団体のなかには、利益のために中国へすり寄ろうとする姿勢が見えるところもあるが、それが本当に日本のためになるかどうかについて今一度胸に手を当てて考えるべきだ。 そもそも、経済交流とは相手が求めてこそ行うべきもの。 それが政治に介入して、中国政府首脳に土下座しコネを付けて、自分の商売の利益を得ようというのは、昔の政商以外の何者でもなく見苦しい限りだ。
 むしろ中国をしばらく放っておいたほうが、経済的には日中友好を進めた方が利益があったと中国も抗日暴動を教唆したことを反省するだろうし、それでも反省しなかったらさらに中国を放置しておけば良いというのが一般国民の考えだ。 たとえそれで日本が貧しくなっても構わないと思っている。 何しろ、抗日映画を水戸黄門感覚で垂れ流して宣伝している中国のことだ。 悪代官にされてしまっているのに、経済団体などが日本を代表したつもりで中国にヘイコラしに行くのは国民感情が許さない。
 

 -以上-

2013年3月3日
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