中国の薄熙来裁判、判決は2013年9月22日に。習近平と薄熙来の類似点、相違点。 東洋学園大の朱建栄教授を中国当局が拘束

★★★ 薄熙来裁判、習体制存続の戦いに発展 ★★★

 中国の習近平国家主席は、2013年初めに汚職の取り締まりを宣言した時、中国を支配する共産党は官僚組織の下っ端の「ハエ」のみならず、大物の「トラ」も追い詰めると説明していた。
 共産党は2013年8月22日、薄熙来被告の裁判の初公判をもって、これまでで最大の獲物をお披露目した。薄被告は中国で裁判にかけられる実力者としては、毛沢東夫人をはじめとする四人組が30年以上前に証言台に立って以来、最も地位が高かった人物だ。 かつての中国独裁者の妻だった江青女史のように、薄被告もけんか腰で、ある証人を「狂犬」「完全に堕落した詐欺師」などとけなした。 英国人を殺害した罪で執行猶予付きの死刑判決を受けて服役している妻も、証人として薄被告に不利な証言をする予定になっている。
 だが、この裁判の根本的な意義は何なのか。習主席はなぜ薄被告が逮捕され、すべての役職を解かれてから18カ月もたった今になって裁判を開くことにしたのだろうか。


■公判の状況を異例の公開
 「習と新政権は、経済が減速しすべての人に批判されているため、ひどく心配している」 と、元中国軍高官の息子で薄被告と一緒に育った人物が本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に語った。「薄はもう死んだトラなのに、なぜ今、裁判にかけるのか。 それは指導部は大衆からの支持を高めるために、退治したトラの皮を見せる必要があるからだ」、と言うわけだ。 インターネットを使い、事実上リアルタイムで裁判の進行記録を公開するという驚くべき決断は、裁判プロセスの正当性を示そうとする試みだが、初公判での薄被告の反論爆発はその当局の努力をふいにする結果になるかもしれない。

 当初、検察・裁判所側はこの裁判の行方に自信を持ち、公開裁判は2日で終えるとしていたが、実際は5日もかかった。 事前の打ち合わせでは、政治裁判の色を薄めるため、薄熙来被告が収賄等の罪を認めれば軽い刑で済ませる、との約束があったようだ。 しかし実際に裁判にはいると、薄熙来はシナリオ通りには動かなかった。 罪を軽くしてもらって飼い殺しされるよりも、趙紫陽氏のように一生軟禁されても政治指導者としての生命を保つ道を選ぼうとしているように見える。 どちらにせよ、もう失うものは何もないのだ。 収賄と横領の自白を強要されたとする薄被告の主張は、不公平なことで悪名高い中国当局や司法制度の面目を失わせることになる。 また収賄横領罪でなく政治裁判として争えば、万が一中国政治が混乱するようなことがあれば、貧困層に人気のある薄熙来が英雄として復帰できる僅かな可能性もある。

 中国政府は明らかに今年の景気減速について懸念している。 経済成長して世界第2位の経済大国になったのは良いが、国民の貧富の差が広がって貧困層には怒りが充満し、農民が平等だった毛沢東時代や文化大革命を懐かしむ機運が出てきている。 去年は、軍部や失業学生、貧困層の不満を尖閣諸島の領有権問題に絡めて抗日デモンストレーションしてガス抜きをしたが、反日暴動の矛先が共産党政権に向きかけただけでなく、景気減速をも招いてしまった。 そこで今度は、収賄・横領の罪で薄被告を鮮やかに裁いて見せて一般大衆のガス抜きをしようと当局は思っているのだろうが、なかなかシナリオ通りには行かないようだ。 薄被告が貧困層に人気があることも、問題を複雑にしている。


■習氏と薄氏の政策、生い立ちに類似点
 皮肉なことに、習氏の政策目標は、薄被告が第2の故郷である重慶―オーストリア並みの広さにカナダ並みの人口を擁する直轄市―で大人気を博すことになった政策と驚くほどよく似ている。

 習氏は2013年3月に国家主席に正式就任してから、中国の政治で言うところの「左:毛沢東主義」にわずかに舵を切ったように見える。 その後に相次ぎ出した通達は、重慶で大きな支持を得た共産主義のノスタルジーに訴える「赤い復興主義」運動とよく似た響きを持つ。 しかしながら習政権は独裁の道を目指して民衆の思想統制をしながらも、共産党政権内部では軍部人民解放軍と江沢民派、胡錦涛派との権力闘争を繰り広げている。
 習氏は「大衆路線」教育キャンペーンを掲げたほか、国際情勢に対して自己主張の強いアプローチを取り、マルクス主義のイデオロギーを強調する一方、民主主義や人権、憲法政治、言論の自由といった「西側」の概念はすべて禁句であり、議論してはならないと宣言した。 習政権はまた、市民は中国での市民社会構築を助け、公共問題にもっと関与すべきだということを平和的に唱えたとして、少なくとも25人を逮捕している。 民衆思想統制による共産党理論強化の真っ最中だ。
 こうした策はどれも、薄被告の指揮下の重慶市でも場違いではなかったろうし、習氏の汚職撲滅キャンペーンでさえ、薄被告が重慶市で実施した汚職撲滅運動をほうふつとさせるものだ。 もしかしたら、この2人がおおむね同じ政策目標に行き着いたのは、意外ではないのかもしれない。 

 どちらも革命を担った共産党幹部の下に生まれ、指導部のエリートが住む北京の邸宅で育った太子党である。 父親はどちらも1960年代に党からパージされた。 2人は究極の特権階級から社会の底辺へと追いやられた。 文化大革命で重労働を強いられた後、名誉を回復、政治的キャリアを築くために地方に送られた。習氏も薄被告も国家主義を標榜しているにもかかわらず、中国の教育制度よりも米国の教育制度を信頼しているようで、どちらの子供たちもハーバード大学で学んだ。 習氏は共産党トップになったが、江沢民氏に近かった薄氏は彼の政敵として失脚させられた、その違いだけなのかも知れない。 どうやら今、「革命の子供たち」は自分たちを生んでくれた共産党派閥体制の存続を確実にするために、互いを食い合うことを余儀なくされているようだ。

 習近平主席は政権地盤固めのために、太子党で上海閥の江沢民派や、共産党青年団閥の胡錦涛派の政敵に圧迫を加える腐敗分子追及は、最適の政治手段だと認識しているようだ。 中国の幹部政治家で、どこから見ても清廉潔白なものなど居ない。 幹部達は地方赴任の際に違法すれすれで金を集め増やして、それを中央に上納することで次のステップへ出世してきたのだ。日本の奈良平安時代の官僚貴族のようなものだ。 どの程度までの腐敗なら見逃すか、誰を逮捕するかなどは、党中央の思うがままだ。 政権の幹部達はさぞや胸が冷え冷えしていることだろう。  −フィナンシャルタイムズより−


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[2013年8月28日 北京/上海ロイター通信より]

 収賄と横領、職権乱用の罪に問われている中国・重慶市の元トップ、薄熙来被告(64)に対し、中国共産党幹部の間には、同被告の政治的な復権を不可能にするような厳しい判決を求める声が出ている。 一方、政治色の強い重罰を優先すれば、中国の「法治国家」としてのイメージを傷つける結果となりかねず、同国指導部はやっかいなジレンマに直面しているとの見方もある。

 薄被告はかつて習近平国家主席のライバルと目されていたが、同被告の妻である谷開来受刑者が関与した殺人事件に絡んで失脚した。5日間にわたった公判は8月26日に結審し、中国国営テレビ局「中国中央電視台(CCTV)」によると、判決は9月上旬にも言い渡される見通し。中国では党が司法を統制しており、特に政治的に影響の大きい裁判では被告が無罪となる可能性は極めて低い。薄被告が有罪となることはほぼ確実とみられている。

<薄被告の印象改善>
 党指導部は、腐敗撲滅キャンペーンを繰り広げる中、5日間にわたり公判内容を一般に公開するという異例の措置を取った。しかし、これが皮肉にも、同被告に厳しい判決を下すことを困難にした可能性がある。 公判では、違法な資金が薄被告本人にではなく、同被告の妻や息子にわたった実態に大半の時間が割かれた。山東省済南市の中級人民法院(地裁)は今回、ミニブログで公判の模様をほぼリアルタイムで伝えた。編集された跡が幾分あるものの、公判の傍聴人によると、ミニブログは公判の要点をうまくまとめているという。
 薄被告の自己弁護は予想外に精力的だった。同氏は公判ですべての罪を否認。その弁明に終始し、権力闘争の側面は垣間見えなかった。中国指導部に近い関係筋は、同被告の陳述が「左派(保守派)の指導者」としての同被告の地位を固めたと指摘、「薄被告は復活に向けた(将来の)政治改革に賭けている」と推測する。
 中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」上の調査では、公判前に薄被告に良い印象を持っていなかった人のうち、ほぼ3対1の割合で被告の印象が改善したと回答した人の方が悪化したと回答した人よりも多かった。また、公判前から薄被告に良い印象を持っていた人の6人に5人が、同被告の印象がさらに改善したと回答した。
 シンガポール国立大学の薄智躍シニアリサーチフェローは「常識的に判断すれば、薄熙来被告に不利な証拠はない。そのため、どうすべきかが中国指導部のジレンマだ」と指摘。「薄熙来被告を有罪にすれば、中国は法治国家だとしている主張が崩れる。しかし、薄被告を無罪にしたとしても、誰も同被告をそのようには扱えないだろう」と話す。

<軽い判決なら習指導部の威光陰る懸念>
 薄熙来被告は、カリスマ性や大衆迎合的な手法、毛沢東時代に似た政策を通じて支持者を増やしてきた。「太子党(党幹部の子弟)」に属しており、今でも党や政府、軍の内部に多くの支持者を持つ。 ただ、もし軽い刑罰が下されれば、職責の軽重を問わず腐敗幹部を取り締まるとする習近平国家主席の約束は信頼を失いかねない。同関係筋は、薄被告が死刑にならなければ、誰も習国家主席を恐れず、言うことも聞かなくなるだろうと話す。 判例に詳しい党の関係筋は、収賄と職権乱用の罪に問われた劉志軍元鉄道相や、薄被告の妻である谷開来受刑者が極刑を免れたことに触れ、薄被告が死刑になることはないとの見通しを示した。
 一方、薄被告が公判で反抗的な態度を示したことが同被告に不利な影響を及ぼすとの見方もある。弁護士のGu Yushu氏は「彼(薄被告)の態度が悪かったと裁判関係者が感じている。危険なことだ」と指摘した。同氏は薄被告の姉から同被告の弁護人に指名されたものの、認められなかった経緯がある。 指導部に近い関係筋はロイターに対し、「薄被告は習国家主席にとって最大の脅威だ。薄被告が死刑になったり、病死しない限り、同被告が復権する可能性を排除できない」と述べた。中国の最高指導者だった故・トウ小平氏を含め、中国共産党の歴史を見ると、失脚後に復活した例は多い。 
9月22日に行われる薄被告の判決では15-20年の懲役刑が予想される。終身刑であれば重い処分といえよう。 しかしいずれにせよ、政変が起きれば薄被告の5年内の復権も十分あり得る。

<政府がたどる薄なき『薄熙来の道』>
 薄熙来被告が権力闘争の犠牲者だと広く見なされているとしても、裁判ではそうした事情に触れることはなかった。 薄熙来裁判に詳しい作家のLi Weidong氏は「政府は薄被告の政策の一部を受け継ぎたいと考えており、重大な罪状を避け、さまつな罪状で薄被告を攻めている」と解説。「政府は、薄熙来なき『薄熙来の道』をたどっている」と述べた。 公表された公判内容は、重慶時代の薄被告の政策には一切触れていない。人権団体は、同被告が自分を批判する勢力を狙って重慶時代に行った暴力団撲滅キャンペーンの結果、多くの誤った判決が下されたと主張している。
 中国の人権派弁護士として知られるShang Baojun氏は「重慶での犯罪撲滅キャンペーンなど、薄被告を追い詰めることができたであろう違法行為は他にも多くある」と指摘。しかし、「そうすれば、余計な注目を集めることになる。彼ら(中国政府)はそうした道をたどることを望まなかったのだろう」と語った。


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   「習政権が国民に対する思想取り締まりを強化

 中国外務省の洪磊副報道局長は2013年9月11日の定例記者会見で、上海で現在行方不明になっている日本の東洋学園大教授の朱建栄氏(56)について「朱建栄は中国籍の公民だ。中国は法治国家であり、公民は国の法律法規を順守しなければならない」と述べ、中国国家安全省がスパイ活動の疑いがあるとして朱氏の身柄を拘束していることを事実上認めた。起訴されて有罪となれば、10年程度の懲役になる模様だ。
 朱氏は上海出身で、日本人と結婚したために中国共産党員の資格がとれず、1986年からは日本を拠点に活動している。勃発した尖閣諸島をめぐる日中間の対立を懸念し、日本のメディアでは中国側の立場から積極的に発言してきた。 2013年7月中旬に上海に戻った後、行方が分からなくなっている。 日本の家族から8月になってから東洋学園大学へ連絡があり、「中国の大学の友人からの誘いで夏休みを利用して上海に行ったが、そのまま所在不明になっている。 中国の親戚に問い合わせたところ、体調不良で入院中だが連絡が取れない」、とのことだったそうだ。 東洋学園大学は、「朱教授は当大学のみならず日本の中国人教官グループのとりまとめ役だった。どうなっているのか心配している。授業は休講にして様子を見る」、とのこと。
 在日中国人の研究者らでつくる「日本華人教授会議」は、9月19日、中国外務省が中国当局による朱建栄・東洋学園大教授の取り調べを事実上確認したことなどを受け、「中国が法治国家として法律に基づき、関係当局が本件を公正に処理することを信じる」との声明を出した。 声明は、日中関係が厳しい状況にある中、「両国関係の改善に努める朱教授の姿勢を評価しなければならない」と強調。中国当局に「大局的見地に立った正当な判断」を行うよう訴えた。朱教授は、教授会議が発足した2003年から昨年末まで初代代表を務めていた。

朱氏のほか、日本で発行している有力中国語紙の中国人編集長の消息も分かっておらず、中国側は共産党思想強化のため国内外で数十名を拘束して取り調べを行っているようだ。 日本で発行する中国語紙「新華時報」の編集長、蘇霊氏が北京に出張した2013年5月以降、消息を絶っている。蘇氏も日中関係改善に向け積極的に活動し、日本国籍を取得した中国人を国政に送り出す運動などを続けていた。 これ以外にも 日本で活躍している研究者などが何人か拘束されている模様で、特に国際政治学などの中国籍大学教授は今の時期の中国への里帰りを用心しているという。
 また中国国内では、ツイッターなどで扇動したものは刑罰に処すとの法律が施行され、ツイッターで中国民主化を訴えるオピニオンリーダーたちが、次々と拘束されて連絡がつかなくなっているという。

 いよいよ習政権の権力固めのための政敵追い落とし裁判と連動させた、国民の思想矯正運動プログラムが始まったようだ。

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2013年8月30日
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