アベノミクスとは? / 中国2013年下半期の経済予測
「アベノミクスとは?」
 現在進行中のアベノミクスの本質とは何であろうか? 日本の経済成長(デフレ脱却・2%インフレ誘導)と、財政再建(政府の借金をこれ以上増やさないこと (消費税を上げても本当に借金削減が可能かどうかは私には疑わしいが)を両立させることがその趣旨であり、そのために安倍政権としては、一の矢、二の矢、三の矢を用意しているという。
 確かにアベノミクス期待で、低迷していた株価はこの半年で急上昇してきた。株価上昇によって、これまで基金の利益捻出に汲々としていた年金基金ファンドや、大企業の内部留保財務業績も上昇し、やっと一息着いたところである。 企業がデフレマインドから脱却するのは良いことである。 ここまでは良かったが問題はこれからだ。
 安倍政権の中でも、経済成長重点派と、財政再建重点派が居る。 両者の考えのバランスが必要なことは分かるが、3年後・5年後の短期的目標と、10年後の中期的目標を、政府が数値目標
(GDPやインフレ率、国の負債削減の数値)で明示して、日本経済戦略のグランドデザインを描いて国民に示して貰わないと、自民党族議員が張り切ってバラマキに殺到しそうで危なっかしくて仕方がない。 消費増税分の用途は社会保障に絞るはずだったが、経済成長のかけ声の下、それ以外への流用が公然と語られている。
 実は経済成長は、人口減少で且つ労働人口急減まっただ中の日本にとっては至難の業で、それは無理と私は考えて居る。 労働人口急減下で経済成長するためには、勤労者一人一人が2割程度仕事の効率を上げなくてはならない。そんなことは無理であり、単に物価値上がりによるインフレでGDPが増加する見せかけの経済成長が日本にとっては精一杯と思う。 しかしそれでも企業にとっては株価が上昇して景気が良くなるので、アベノミクスはうまみがある。 
 政府にとっても適度のインフレは、国債借金額が軽減されるうまみがある。 政府が懸念しているのは、財政再建する気がないとグローバルファンドに悟られて日本国債が暴落し、利回りが上がって、政府の国債利払いが大変になることだけだ。 そんなことになれば、利払い増加でさらに政府の借金が増えてしまう。 国債利回りの上昇抑止のために、政府は銀行に国債購入を依頼したり、諸々細心の注意を払っているところだ。 国債利回りさえ上昇しなければ、毎年GDPが3%
(インフレ2%+実質経済成長1%)増加することでお金の価値が下がり、政府は何もしないでも10年で借金を実質的に2/3に減らすことが可能だ。 政府だけではない。お金の価値が下がることで、借金を抱えて働いている若者世代も給料は上がり、借金は軽減する。 高いローン金利を払っていなければの話しだが・・・・・。
 
今後苦しくなるのは、働けない高齢年金受給者層だ。年金額はインフレに連動しにくくなるだろうし、消費税や保険金支払いが今後増加してゆくのは目に見えている。 さらにインフレでお金の価値が下がることで、預貯金の目減りが追い打ちをかける。
 私が見るところアベノミクスで2%程度のインフレは起こせるかも知れないが、日本の経済成長は無理だ。アベノミクスとは、富裕な高齢者や主婦層の資産を若年勤労者層に移転してゆく
「資産移転政策」以上のものではない。すなわち「円安インフレによって今のツケを次の世代に回さない政策」なのだが、それも今の日本を見ていると仕方ないかもと思う。 しかし個々人はこのことを頭に入れて生活防衛し、10年後の家計経済戦略を考えてゆく必要がある。
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「所得格差の社会保障による是正効果はあるものの日本のジニ係数は危険水域」

所得再分配調査は3年に一度、前年の所得を対象に実施する。厚生労働省が2013年10月11日発表した2011年の所得再分配調査を基にして、厚生労働省は「国民所得の再分配後の所得格差是正が進み、所得再分配政策は効果がある」 とした。

2005年までの日本での所得再分配調査の結果によれば、日本のジニ係数は高齢化によるとされる急激な上昇分を社会保障の再分配によってほとんど吸収しているが、十分ではなく、税による再分配が弱まっているために、ジニ係数の上昇を早めている。 この原因として、中間所得層に対する税率が OECD各国に比べて低すぎること、労働年齢層に対する社会保障が少ないことが明らかにされ、養育に対する支援も少ないことで子育て世帯の貧困率を高めている可能性があることが指摘されている。 ジニ係数は、0.4以上では経済格差が著しいとされる。
 2008年のOECDレポートでは、「日本のジニ指数は1980年代より毎年上昇していたが、2000年以降の4年間にかけては下落した」 と報告されている。 しかしそれでも日本の経済格差は OECD諸国の中で4番目に高い。

 今回2011年調査によると、再分配前の当初所得でみた「是正前ジニ係数」は高かったが、税金や社会保障制度を使って低所得層などに所得を再分配した後の世帯所得格差を示す「是正後ジニ係数」は
0.3791となり、日本の経済格差は危険水域ではあるがなんとか基準を保った。 再分配後はジニ係数が3割も低下しており、所得再分配による経済格差是正の効果は大きかったといえる。
 ジニ係数計算では公的年金は所得に含めないために、年金生活高齢者が増える日本では「是正前ジニ係数」による経済格差は広がってみえる。 日本では年金は税金で支払われているのではなく、個人の掛け金に基づく社会保障なので、年金収入がなぜ所得ではないのかという疑問が沸くところではあるが・・・・・・。 まあ政府による税金再分配の成果かどうかは疑問だが、「是正後ジニ係数」のほうが日本での貧困格差の実態を表していると言えよう。

今回2011年調査では、再分配前の当初所得の「是正前ジニ係数」は 0.5536で、前回2008年調査の 0.5318を上回り、日本国民の所得再分配無しの経済格差としては、これまでで最大になった。 この「是正前ジニ係数」上昇の約7割分は年金生活高齢層の増加による要因だったが、所得水準が低い単身世帯が増えたことも影響した。
 税金や社会保険料を差し引いたうえで公的年金などの給付を加えた所得でみた「是正後ジニ係数」も 0.3971で、前回2008年調査の 0.3758より上昇し、国民の経済格差が大きくなったことを示した。 格差是正については、社会保障制度による再配分改善度が約3割と大きく、税配分による改善度は1割以下しかなかった。
 
 懸念点としては、若年層では同世代内の経済格差が広がった。 たとえば世帯主が 35〜39歳の「是正前ジニ係数」は、 2008年の
0.2779から、2011年には 0.3358に急上昇し、危険水域となっている。 また、世帯主が「29歳以下」「30〜34歳」の場合も、 2008年よりも「是正前ジニ係数」が上昇している。 これは非正規社員の増加や就職難が響いたためとみられる。

 次の2014年調査では団塊世代の殆どがが完全に年金生活になるため、日本の「是正前ジニ係数」は、
0.6を超えると予測する。 問題は「是正後ジニ係数」がどのくらいの数値になるかどうかだが、団塊世代の社会保障は恵まれているので国民全体としては 0.4以下に収まるであろう。 しかし、勤労者層のジニ係数が 0.4を超えないかどうか心配だ。




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★★中国の2013年下半期経済予測★★
中国経済のハードランディングの可能性は低いが、いずれソフトランディングは避けられない。

 中国では地方政府のシャドウバンクが不動産バブルを支えているが、バブルが弾けないのはシャドウバンクに中央銀行が資金供給しているからだ。 李首相は財政健全化のために資金供給を絞ろうとしたが、バブルがつぶれかけて断念した。 しかし無制限に資金供給を行っていては、いずれ起こるバブル崩壊のハードランディングが致命的に大きくなる。 2013年秋になって、政府にとって気になる現象が起こり始めた。 その一つは、北京でのマンション価格がサラリーマン年収の50年分になったことだ。日本の1991年不動産バブルの5倍以上であり、中国不動産バブルは誰かがババを掴んで近いうちに破裂する。 二つめは、9月消費者物価指数が3%を超えたこと。インフレ抑制しないと、貧困層の不満が高まって危険性が増す。 三つ目は、9月に中国の米国債保有が1兆2千800万ドルになり、2位の日本を1千万ドルも引き離したこと。 これは最近、元安為替維持と余剰資金運用で米国債を大量購入したためだが、米国議会のゴタゴタで米国債が暴落でもしたら大損になるので、中国としても米国債以外へのリスク分散を考えるだろう。
 十分な資金供給を行えばバブルは潰れないが、不動産価格上昇、インフレは進行する。いずれは元安に振れて、石油や大豆などの飼料購入が高くつくことになる。 そのため、中国政府は共産党大会が終わる11月が過ぎれば、シャドウバンクへの資金供給を本格的に絞り始めるに違いないと予測するが、これは一歩間違えればバブル崩壊に繋がる。 もしもバブルが一気に破裂して中国経済がハードランディングすれば、そのときにはリーマンショック以上の世界不況が起きる。


 (12月の追加情報) なお中国の証券時報は、中国政府傘下のシンクタンクである中国社会科学院の研究を引用し、中国の地方政府の債務が2012年末時点で19兆9000億元(3兆2800億ドル)に達した可能性があると伝えた。 公式に発表されている2010年末時点の水準の10兆7000億元から比べると、ほぼ倍増したことになる。 証券時報によると、社会科学院は「地方政府の債務水準を注視する必要がある」と指摘。 研究はまた、2012年末時点までの中央・地方政府を合わせた債務が28兆元近く、国内総生産(GDP)の53%相当に達した可能性があるとしている。
 また、中国の資金不足が2013年年末に再発した。ブルームバーグやロイター通信などは、「12月23日、中国銀行間の短期金利(12月7日)が8.9%に達した」、と伝え、さらにその後一時10%まで急騰した。 銀行間金利は、都市銀行が資金の卸売市場から急な入り用の資金を借りる時に負担するもので、資金事情の最初の指標である。  この日の銀行間短期金利は先週末よりも1.3ポイントも高い。2013年6月20日(11.2%)以来の最高値だ。 ブルームバーグは、「23日の金利は、第1次信用収縮である6月よりも高くはないが、長期平均値である4.3%より2倍以上高く、銀行の資金不足は侮れない」、と報道した。  今回の資金梗塞の兆しは12月17日から始まった。 中央銀行である人民銀行(PBOC)は2日ほど事態を見守って市場介入に出て、先週末「資金不足を解消するために緊急資金を投じた」、と発表したが、人民銀行がどの程度の金融緩和を行ったのかは明らかにしなかった。 ブルームバーグは、「投入された資金は2000億中国元(約3兆4350億円)に達するというのが一般的観測」 と伝えた。  しかしフィナンシャルタイムズ(FT)は、「人民銀行の介入にもかかわらず、短期金利は先週末に続き2日連続で上昇している」、として、「人民銀行の介入が効果を出せていない」、と伝えた。 これに対して中国政府は、「信用収縮をあおるようなメディア報道は許さない」、と警告した。  米投資銀行ゴールドマンサックスは12月23日に出した報告書で、「中国政府の都市銀行預託が減ったことがこの事態を招いたが、一時的な不足なので金利はまもなく4〜5%水準に復帰するだろう」、とした。 米フォーブス紙のほうは、「今年の6月に続き信用収縮が再発したことは、借金に依存した中国経済構造が限界に達していることを示唆する」、として、「信用収縮の再発のために、しばらく静かだった中国経済軟着陸の憂慮が再発する兆し」、と伝えた。  こうした憂慮を反映して、中国の上海と香港証券市場の株価は年末にかけて、連日下落した。

 中国上海株式総合指数は2008年に6000ポイントに達し、現在は2000付近をうろうろしている。前回のバブル期からは株価は1/3に落ちている。 一方、日本の東証株価指数はバブル期には4万円まで行ったが、アベノミクスで1万5千円に回復しやっと株価が1/3に戻ったところだ。 日中両国ともバブル崩壊の経験はすでにあるわけだから、賢明な中国経済官僚は今回の不動産バブルは徐々に潰してゆく計画だろうが、例えソフトランディングであっても中国経済の停滞は避けられず、中国内中小企業の倒産頻発はやむを得ないと覚悟しているだろう。 中国国営企業や国営銀行が倒産するようなハードランディングは、独裁政権の中国政府はその豪腕を使って何としてでも阻止できるが、しかし、中国経済のソフトランディングはもうすでに始まっており、中小企業の倒産が増えてきているし、大学卒業生の就職率も悪化している。 中国のGDPはもはや8%を超えることはないとするのが経済学者の予測だ。すなわち、この2-3年は7%付近で推移し、5年後には6%台を維持するのがやっとになるであろう。 もはや中国の驀進型高度成長期は終わり、GDP7%以下に落ち着く後期高度成長期に入ったのだ。
 しかし、予想より早く5年後にGDPが5%台に落ち込んだりすると、経済状況悪化で中国民衆の不満が爆発し暴動が起きてしまうので、中国政府は民衆の気を惹くために反日など対外攻撃を強めざるを得ない。 反日を煽れば日本の対中投資
(特に内陸部への投資)が減り、さらに中国地域経済が悪化する悪循環に陥るが、習政権にとって背に腹は代えられないだろう。 中国との貿易に過度に経済依存している韓国などは、これからの中国の経済成長率低下の様子を注意して見ておいた方がよい。

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最近の中国での国内マスコミ言論締付けや共産党思想強化運動の必死さは、目に余るものがある。 それだけ中国政治が内外ともにせっぱ詰まってきているのだろう。 おそらく、2013年11月11日の第3次中央全体会議(5年に一度開かれる中国共産党の3中全会)での経済計画政策立案のためと、共産党内部抗争に備える習政権の基盤固めのために、国民へ思想教育強化をしているのだろう。 この時点で、中国経済成長の鈍化が貧困層国民の生活を直撃しそうな情勢であるのが怖い。 先年は反日デモを扇動して国民貧困層の不満をそらしたが、今回は外国製品全般への排斥で貧困層の不満をそらそうとしているようだ。 しかしながら中国の貧困層対策は、抜本的な改革を行わない限り根本的な解決は難しいだろう。
 
それから今年はあと一つ、ウオッチしておくべき中国政界の動きがある。 階級固定化を防ぐために、11月の3中全会で李克強首相が中国富裕層を対象に相続税制度を創設できるかどうかだ。 これをやられると上海閥や太子党などの既得権益層が大打撃を受けるので、彼らは頑強に反対している。 しかし中国の貧困格差は、第2の文化大革命を引き起こしかねないところまで来ている。 国民貧困層の固定化は何としてでも避けなければ将来革命が起きるかもしれない。 反日教育や薄裁判くらいのことで、貧困層国民のガス抜きができるものではない。 共産党青年団系の胡錦涛前主席やその系列の李首相は、格差是正のための相続税創設せよ派だが、江沢民・上海閥派は反対派だ。 習主席はどのような意向か明確ではない。 相続税創設問題は、下手すると習主席と李首相の決裂に繋がりかねないセンシティブな大懸案事項である。

 (追記) 3中全会の決定が発表された。 市場開放することや、経済格差に対する民衆の不満を和らげるという今後5年間の方向性は示されたが、具体的決定は一人っ子政策の緩和を除けば何もなかった。 目立ったのは政治安定のための習近平主席への一極集中が強まり、経済で大ナタを振るうべき李克強首相の存在が薄れたことだ。李首相は江沢民派太子党の利権構造を打破できず、朱鎔基元首相ほどの経済改革実行力と存在感は見せられなかった。 市場解放と言うが、中国は外国に市場解放したいわけではない。 自国で生産できるようになったら外国製品を締め出して、太子党経営以外の民間中小企業に市場を振り向け、民衆の不満を和らげたいのだ。 すなわち中国市場は、できるだけ国営大企業と国内民間中小企業で独占したいとの意味だ。 方向性は示されたのだから、共産党青年団出身(胡錦涛派)の常任委員が多数を占めるようになる5年後への準備備はできたと言うべきか。 それまでに中国で大規模暴動など政治面のハードショックが勃発しなければ良いが・・・・。


-中国は国際標準に則った新GDP算出法に変更する方向/ロイター−
 中国は、国内総生産(GDP)の算出方法の抜本的な見直しを計画しており、世界的な基準に沿うように変更する。 新華社が2013年11月18日、国家統計局の許憲春副局長の話としてこのように伝えた。 同副局長によると、国連では2008年国民経済計算体系(08SNA)に沿った算出方法の導入が提案されている。 現行の国連の算出方法は、1993年の古いものに準じているという。
 そこで国連では、早ければ2014年末から新たなGDP算出方法の運用が始まる。 計算方法が改められれば、研究開発費が固定資本としてGDPに算入され また持ち家の価値を算出する新たな方法を取り入れるほか、農業従事者の収入の計算方法も変更され、会社従業員が保有する株式オプションも賃金の一種として指数化する。
 中国としてはこれまでのGDP指標が低くなる可能性があるが、それは一時的なものであり、新GDPも経済成長を誇示する指標となり得るため、中国でもこの新たな国連GDP算出法の導入適用を検討しているとのこと。


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中国・李首相が中国のカネ余りにインフレの恐れと警戒
失業抑制へ「7.2%の成長は必要」 2013/10

 中国の李克強首相は2013年10月20日、中国国務院(政府)の常務会議を開き、「シャドーバンキング(影の銀行)」問題などに揺れた今年前半の経済運営について 「国内外の複雑な経済情勢に直面しながらも、改革と調整を進め、経済の安定的前進の基礎固めをできた」 と語った。 引き続き内需拡大策や、貿易・投資の利便性向上、金利の自由化などの施策を進めるとした。  ただ、投資に過度に依存する経済構造は変わっておらず、バブル懸念や地方政府の債務膨張といった問題は残ったままだ。 中国共産党は11月に党中央委員会第3回全体会議(3中全会)を開き、今後の経済改革の方向性を打ち出す見通しだ。  10月18日に発表した中国の2013年7〜9月の国内総生産(GDP)は、物価変動を除く実質で前年同期に比べ7.8%増えており、中国景気に持ち直しの動きが広がっている。

 また2013年10月、「国内総生産(GDP)に対する財政赤字の比率を、現在の2.1%以内に抑える必要がある」 との考えを示した。 中国の広義の通貨供給量(マネーサプライ、M2)は3月末に100兆元を突破しており、「マネーサプライの対GDP比率は200%を超えている」 と国内のカネ余り状況に警鐘を鳴らした。 これは2013年10月下旬の中国工会(労働組合)第16回全国代表大会での李首相の講演をもとに、香港経済日報などの香港や中国のメディアが10月5日に伝えたもの。 報道によると李首相は、「マネーサプライの拡大はインフレにつながる恐れがあるため、財政赤字の不拡大を堅持する」 と強調した。 そのうえで、「金融は、現段階で緩和も引き締めもしないつもりだ」 と述べた。 雇用問題については 「GDPの伸びが1ポイント程度上昇すれば、130万〜150万人の雇用が生まれる」 と試算した。 毎年1000万人の求職者が都市に流れ込むことを想定すると、「都市部の登録失業率を4%前後に抑制するためには、GDPで7.2%の経済成長率を確保する必要がある」 との見通しを示した。
「習近平政権が中国経済成長率の目標値引下げを容認へ(GDPは7%台)」
ウォール・ストリート・ジャーナル解説 2013年 10月21日(月)

中国の習近平国家主席が経済成長を最優先する戦略を見直すと発表した。 向こう1年間の中国の国内総生産(GDP)成長率は、国内外の経済情勢のみならず国内の政治判断にも左右されることになる。 中国は10月18日、7-9月期(第3四半期)のGDP成長率が前年同期比7.8%、前期比7.5%だったと発表した上で、今後はこれ以上速いペースでの成長を維持するのは難しいとの見解を示した。
 習主席は今月に入り、2014年の成長率目標を7%台(今年は7.5%)に下げると示唆していた。地方指導者との会議で、目標成長率をもっと低くしても、10〜20年の間に国民1人当たりの所得を2倍にするという長期目標は達成可能である、と発言した。 成長目標を下げれば、経済を構造改革する余裕が生まれる。 ただし、経済を構造改革すれば、短期的な成長率は圧迫される。
 他の経済大国に比べればGDP成長率7%台という数字は高水準だが、2007年以降の中国経済はこの2倍のペースで成長を遂げてきた。 中国はこのままずっと8%以上の成長を続けて金儲けの機会を提供し続けると期待していた内外の企業にとっては、この方針転換は頭が痛い。 しかも最近の中国は国内企業の育成・保護に熱心だ。 まずは手始めに、これまでレアアース企業や電機産業などへの投資・技術移転をしてきた日本企業を叩き、次にはグーグルやアップルを叩き、さらにはスターバックまで叩いている。 日本の製造業は投資先の東南アジアシフトを始めた。 米国ウォルマートは数週間前に中国国内の複数店舗を閉鎖すると発表し、米メーシーズは事業拡大計画を延期した。 実はコンサルティング会社ベインのコンサルタント、レイモンド・ツァン氏によると、ここ数年間に中国南部では数千社の小企業が閉鎖・倒産しているので、中国政府としても背に腹は換えられないのだ。

 習主席は経済政策を転換してGDP成長率だけが成功の指標ではない、ということを示そうとしているようだ。 共産党の目標を実行する手段として、毛沢東時代の慣行だった政府高官が自己批判する会議を開催するよう、強く勧めている。 また、成長を過度に重視する戦略は、今や政権中枢でも批判の的となっている。 共産党の旗艦紙、人民日報によると、9月に東北部の河北省で開かれた自己批判会議では、ある地方官僚が「経済成長に重きを置きすぎた。 一般国民の不安には注意を払ってこなかった」、と認めたが、この会議は国内のテレビや新聞で幅広く報じられ、国民にも宣伝された。
 政府系シンクタンクの中国社会科学院(CASS)の上級エコノミストHe Fan氏は、河北での会議が「経済成長基準を設定した」ほか、「もはやGDP成長率を自慢しても仕方ない。 古くさい経済成長モデルに固執して上昇を志向している、と外国からけなされるのがおちだ」、と述べる。 国内の研究者たちは何年も前から、「地方官僚は、自身の昇進のために中央政府のGDP目標を常に超えようとしている」、と指摘していた。
 より持続可能な成長軌道を探る自己分析や取組みは、調整を伴うものでもある。 7月には、低成長が経済のハードランディングを招く恐れがあったため、中国政府はインフラ投資を増やすという従来の景気回復手段を用いた。 しかし持続可能な成長を実現するためには、政府は、「現在は極端に安くしているエネルギー価格を世界の市場の変動に連動させることで、需要管理の向上、環境汚染の緩和、産業の効率化を図るしかない」 と考えているようだ。
 エコノミストによると7-9月期の成長は、インフラ投資や輸出の伸びに加えて、2013年に入っての政府融資額の大幅な増加をも反映したものであった。 国家統計局の盛来運・広報官によると、「9月には成長ペースが鈍化した。 今後は、政府融資増額は期待できず、外国からの投資も減少気味で、7-9月期と同水準の成長ペースを維持するのは難しい」、との見解だ。

 中国指導部はGDPを維持するために、企業の競争力を引き上げる政策を模索しているが、明確な成果はまだ現れていない。 党指導部は11月に北京で会合を開いて改革案を発表することになっている。 この改革によって、賃金や社会福祉税、環境汚染防止対策コストなど、企業側のコストは増加するもようだ。 そのためには、政府が国営大手企業による独占市場を民間中小企業に開放するなどの抜本的な生産性向上策を採らない限り、中国の成長率は今後下がってしまうおそれがあると懸念している。

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中国紙『大紀元』(2013年9月9日付け)は次のように伝えた。
 米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、9月3日に発表した『中国50大銀行に関する報告書』で、中国の銀行セクターは、『輸出低迷』、『過剰生産能力』、『地方政府負債問題』の3つのリスクが目前に迫っていると警告した。 報告書では、中国銀行セクターは今後2〜3年の内に、これら3つのリスク拡大により不良債権が急増する恐れがあるとした。 これらは銀行セクターの信用評価に極めて大きな圧力をもたらしており、信用格付けを引き下げる。 不良債権の急増により、一部の中小金融機関は破たんに追い込まれるため、今後の中国では銀行および金融機関の業界再編が避けられないばかりか、再編は加速するだろうと予測した。
 李克強首相は、世界中で大きなうねりを見せる「中国経済警戒論」に対して、英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』(アジア版9月9日付)に寄稿した。 中国首相が海外メディアに寄稿するのは珍しいことである。 それだけ、事態が逼迫化していることだ。 その寄稿では、「中国経済は持続的で健康な発展を続け、改革開放の道を歩み続ける。 今年の成長率は7・5%前後となるが、これは自然な経済(原理)と政策調整の結果だ。 中国経済はハードランディングはしない」 と主張した。
 これまで中国経済について比較的楽観論の立場を取ってきた英経済誌『エコノミスト』が、論調を一変させて警戒論に立つようになっている。 『フィナンシャル・タイムズ』紙は早くから警戒論であったが、これで、世界二大経済ジャーナリズムがそろって中国経済警戒論で歩調を合わせた、と。
  中国金融業界の再編は避けられそうにないが、日本の失われた20年の二の舞を避けることができるかどうかが、李克強首相の腕の見せ所であろう。 金融業界だけでなく、鉄鋼、資源、電気など、今は中国全体が不況にあえいでいる。 外国からの投資も入ってこないので、未だに中国政府はインフラ公共投資を続けているが、それにも限度がある。 経済問題を全面的にを任されている李克強首相の強みは、いざとなればシャドーバンクや地方政府の負債を健全化して融資を停止するぞと、借金で投資している国内富裕層の企業を脅せることだ。 こういう荒技は独裁国家ではあり得ることで、実際に見せしめのためにいくつかの上海閥既得権益企業を潰してみせるだろう。 ロシアも以前に贈収賄や脱税容疑で巨大国営石油企業を潰して見せたことがある。 これからは、中国の企業も気が気じゃないだろう。

(2013年9月22日 Forbes.comより)  2012年末時点の中国企業の債務は、一般に参考にされているロイヤルバンク・オブ・スコットランドのルイス・クイジス氏のデータによると、国内総生産(GDP)の113%だった。2008年の86%から悪化している。JPモルガンは2012年の数値を124%、スペイン系BBVAは約130%と見積もっている。 だが実態と比較すると、どの数字も低すぎる。GDPの数値として過大評価も甚だしい公式統計をもとにしているからだ。名目GDPに物価上昇を適切に反映するだけで、2012年のGDPは1兆ドル(約97兆円)以上減少する。そこからさらに明らかな偽りを削れば、中国企業の債務はGDPの155%といった驚くべき数値になるだろう。
 中国の企業債務は、全国的な危機の引き金となるだろうか? UBSのワン・タオ氏は今年7月、「債務水準は国が深刻な問題を抱えているか否かの判断基準として適切ではない。問題は返済が可能か否かで、今のところ中国には債務の返済能力がある」と語っている。 たしかに今のところ、ワン氏の見方は正しい。だが簡単な計算をするだけで、中国はまもなく大量のデフォルト(債務不履行)に悩まされることが予想できる。サウスチャイナ・モーニングポスト紙のトム・ホーランド氏は「中国株式会社のバランスシートは危険信号を発している」と書いている。具体的にホーランド氏が挙げているのは、中国の売り上げ規模の大きい上場企業1500社の債務は、年間営業キャッシュフローの7倍近いという調査会社フォレンジック・アジアのギレム・トゥロック氏の指摘だ。健全な水準は3〜4倍、6倍で危険という。 そのうえ中国企業の財務状況は急激に悪化している。2012年の企業部門の純債務は純利益の30倍と、2011年の10倍から大幅に増えている。
■過剰生産能力を抱える鉄鋼業界
 利益が減少し、債務が増加するなか、中国企業の債務返済能力は急激に悪化するだろう。すでにフリーキャッシュフローは大幅なマイナスだ。これはアジアでは1997年の金融危機直前の数カ月以外には例のない、きわめてまれな事態だ。 「ゴースト・シティ問題」に注目しているアナリストは、中国の債務危機はLGFVと呼ばれる悪名高い地方政府系の金融機関から始まると考えている。だが足もとでは、巨大な国営企業や小規模な民間企業など、国内企業が危機の引き金になるという懸念が高まっている。
 最も深刻な問題を抱えているのは、おそらく鉄鋼業界だろう。同業界の生産能力は世界の鉄鋼生産の66%を占めるまでになったが、そのための工場を建設するのに総額4900億ドルの債務を積み上げた。だが中国政府は明らかにやりすぎた。中国は現在、3億トンの余剰生産能力を抱えているが、これは欧州連合(EU)の生産量の2倍に相当する。
 過剰生産能力は必然的にデフォルトにつながったが、これまでのところは業界周辺部にとどまっている。江蘇省などの鉄鋼商社は債務返済に行き詰まり、今年4月にはシティック・トラストが元利返済の滞った鉄鋼関連のトラスト(企業合同)の債務を競売にかけた。
 一見したところ、大手鉄鋼会社の破綻は起こりそうもないが、それは中国政府が長年鉄鋼産業を支援してきたことが大きい。改革派の李克強首相は重要性の低い工場を閉鎖したいと考えているが、中国ウオッチャーの間では小さな工場を1つか2つ閉鎖する程度に終わるという見方が大勢を占める。李首相の前任者たちも余剰生産能力の解消に努めたが、結局地元の抵抗に遭い、ものの見事に失敗した。
 こうした状況を踏まえて、公的機関である中国冶金規画研究院の李新創院長でさえ、資金の借り換え難から、1年以内に少なくとも1件はデフォルトが起こると見ている。
■「1年以内に企業のデフォルトが増加」
 大手企業の破綻は、鉄鋼業界でドミノ効果を引き起こすという見方もある。ありえないような話だが、今年3月に太陽光パネル世界最大手であるサンテック・パワーの中核子会社が破産法の適用を申請したことは、今後鉄鋼業界で起こる事態の予兆のようだ。サンテックの太陽光パネルも鉄鋼業と同じように中央政府の手厚い支援を受け、それが過剰生産能力を生むことになったため、サンテック子会社の破産申請は明らかな警告といえる。鉄鋼や太陽光パネル業界と同じような問題は、重工業全般に顕著だ。例えば石炭やアルミ会社は現在、特に脆弱に見える。
 このためアナリストは懸念を強めている。S&P香港支社のクリストファー・リー氏は今後半年〜1年以内に企業のデフォルトが増加すると予想する。JPモルガンのチュウ・ハイビン氏は企業債務を「最大の懸念材料」と指摘する。フォレンジック・アジアのトゥロック氏は「不況は避けられない。中国がシステムを浄化するには景気後退が必要だ」と語る。
 中国のテクノクラートはこれまで、システム浄化のための景気後退を避けることに成功してきた。国家統計局によると、最後にそれが起きたのは毛沢東が死んだ1976年だという。ただ現実には、中国は1990年代末にも不況に陥っており、今回もまだ不況が始まっていないとすれば、まさにその瀬戸際にある。
■流動性供給を続ける人民銀
 現在、李首相は景気後退を避けるため、中央銀行である中国人民銀行にあふれんばかりの資金供給を命じている。人民銀行は6月21日にひそかに流動性供給を開始し、その後も一部は公然と、また一部は秘密裏に供給を継続している。
 公式統計が正確であれば、流動性供給は不必要に思える。だが中国政府の自慢である大規模企業は金欠状態で、今は支払いに銀行引受手形(実質的には約束手形)のような現金代替物を使っている。フィナンシャル・タイムズ紙によると、上海のある自動車部品会社では、売掛金のほぼ3分の2をこうした現金代替物で受け取っている。このため仕入れ先に支払いをするための現金がない。同紙は吉林省の自動車会社が発行し、支払いに2度使用された額面約100万元(約1580万円)の手形を確認している。
 こうした行為は横行している。発行済み手形の総額は2008年にはGDPの3%だったが、昨年には同11%に増加した。実効金利が急上昇している現状(2年前はゼロ%だったが、最近は企業の支払う平均金利は8%近い)では、支払いの連鎖のうちたった1社がデフォルトするだけで、省や産業の枠を超えた破綻の連鎖が始まりかねない。

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「インフラ投資依存の限界」

 中国景気を予測する上で、インフラ投資への期待がかなりのウエイトを持っている。果たして、インフラ投資にそれほどの期待はかけられるであろうか。中国政府は、2008年9月のリーマン・ショック克服のため、4兆元投資というGDPの16%にも当たる巨額投資を行った。 これが、不動産バブルの原因になり、地方政府に膨大な債務を背負わせることになった。 未だ、この地方政府による債務残高すら把握されていない現状である。 この段階で、中央政府がさらにインフラ投資を積み増せ、という指示を出せるはずがない。それは常識であろう。とすれば、インフラ投資にも自ずと限度があるのだ。
 「野村国際の張智威氏は、主に『影の銀行』を通じ調達した資金で賄う地方政府の資金調達会社
(地方融資平台)の負債総額が、12年末でGDPの37%にあたる19兆元(約307兆円)にのぼると試算する。 この仕組みを通じて固定資産投資に資金を回し、成長を支えてきたが、『政府は金融リスクを抑え、成長の減速を容認する』とみて、14年の成長率を6.9%と予想している」。
 上記の野村国際の張智威氏の予測が、最も理屈にあったものだと見る。 中国経済は明らかに「旬」を過ぎた経済である。 2011年に「生産年齢人口比率」がピークアウトしていること。 不動産バブルの処理がこれから本格化すること。 「イノベーション能力」がゼロであること、などを勘案すれば、7%を割る成長率に落ち込んでも何の不思議もない。
 評論家の福島香織氏は、中国政府が経済政策で「Uターン」した背景について、次のように見立てている。 これは、「イノベーション能力」がゼロと深く関係している。 「リコノミクスの最大のキモは、国有企業の民営化や土地制度などに踏み込む可能性があることだった。 そうなると『中国の特色ある社会主義』の根幹である『公有経済を基礎とする』いう前提や、それを支える戸籍制度や土地所有制度に切り込むことなる。 経済改革は法制改革となり、政治改革につながる。 体制の形すら変える可能性もはらむ。 特に現在、資源市場や金融市場を牛耳っている上海閥あるいは太子党と呼ばれる既得権益層にしてみれば、李克強はどこまでやる気なのか、と空恐ろしい思いをしており、徹底的に抵抗することだろう。 経済的なハードランディングだけでなく、政治的ハードランディングを起こす可能性もあるわけだ」
(『日経ビジネスオンライン』9月4日付け)
 李克強首相のインフラ投資を制限しようという理想論が、保守派によってあえなくひっくり返された事情は、多分、こうした抵抗に遭った結果であろう。 改革への抵抗がいかに凄まじいかは、日本についても見られる。オリックス会長の宮内義彦氏は、『日本経済新聞』の「私の履歴書」(9月の連載)で、政界・官界・産業界の既得権益層が一体になって、改革阻止に向けて団結してきた状態をつぶさに書いている。 これを読むと、日本全体の利益を忘れて自己の業界利益保護に向けて、見栄も外聞もなく裏工作を執拗に行っていた事情が手に取るように分かるのだ。 日本の「鉄のトライアングル」を形成した、農業や医療の関係者は深く反省すべきである。
 民主主義国の日本ですら、こういう状態だったのだ。 中国のような一党独裁体制の下では、さらに激しい利益ぶんどり合戦が繰り広げられているはずである。 日本が、「失われた20年」を余儀なくされた背景に、前述のような規制改革を妨害した既得権益層が上げられる。 中国においてはさらに大がかりで、金銭が絡んだ改革阻止運動が繰り広げられているに違いない。 日本では、TPP参加交渉が規制改革の妨害勢力を一掃するチャンスである。 中国には、そうしたチャンスはもともと存在しない。 なぜならば、西欧型民主主義=完全な市場経済を拒否している以上、既得権益層一掃の「物理的力」
(市場の強制力)が働く余地はどこにもないのだ。 あるとすれば、過去を断絶する「革命」しか方法はないであろう。

 
また、李克強首相は中国既得権益層の岩盤利権を崩すために、上海に国際経済特区」というものをこのたび設立し、外国資本を入れようとした。 しかし、特区の各種規制改革は骨抜きにされてしまい、外国企業は数えるほどしか参加しないようだ。 李首相は特区構想の発案者でありながら、その開所式にも出席できなかった。 既得権益層からの激烈な抵抗があったのだろう。 太子党などの既得権益層に立ち向かうには、李首相だけでは非力過ぎるように見える。   (2013年10月10日 勝又壽良経済時評より)
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2013.10.10石平氏の中国評論より)
 10月1日は中国の「国慶節」、つまり建国記念日だ。人民日報の1面は恒例の祝賀社説を掲載したが、そのタイトルはずばり、「現代中国のために夢の力を結集せよ」である。 昨年11月の習近平政権発足以来、習国家主席自ら言い出した「中国夢」というスローガンは今や政権の最大のキャッチフレーズとなっている。 習主席自身が日々念仏のように唱えている以外に、全国の宣伝機関を総動員して一大宣伝キャンペーンを行い、国民への浸透を図っている。 上述の人民日報社説は、まさに「中国夢」の宣伝キャンペーンに沿ったものである。社説は習主席の言葉を引用しながら「中国夢」の「偉大なる歴史的・未来的意義」を熱っぽく語り、「夢」という言葉を連呼してテンションを上げている。「習主席による、習主席のため」の提灯(ちょうちん)論説そのものである。
 だが、同じ1日付の人民日報の2面に掲載されている一通の講話は、それとは趣をまったく異にしている。 9月30日、中国国務院は国慶節のための祝賀会を催した。そこで祝辞を述べたのは国務院総理(首相)の李克強氏である。翌日の人民日報に掲載された祝辞の全文を読むと、中国政治に敏感な読者なら誰もが、その異様さに気付いたはずであろう。
 前述の人民日報社説とは打って変わって、李首相の祝辞は習主席の「中国夢」に極めて冷淡な態度を示しているからである。 習主席自身も祝賀会に出席している中で、李首相がこのキャッチフレーズに触れたのは祝辞の最後の一度だけだ。 それは、目の前にいる習主席への最低限の配慮であるにすぎない。 祝辞全文を読めば、李首相が注目しているのは社会的不公正の是正など現実的な問題であって、「民族の偉大なる復興」などの壮大なる「夢」にはまったく興味がないことは明白である。
 内部の分裂をできるだけ外部に見せないという秘密主義の指導体制の中で、李首相の祝辞はむしろ、許されるギリギリの線で自分と習主席との考えの違いを明らかにしたものだ。共産党最高指導部内の同床異夢は、もはや隠しようのない事実である。 「中国夢」にそっぽを向いた代わりに、李首相が祝辞の中でわざと言及したのは「科学的発展観」である。「科学的発展観」というのは、胡錦濤前国家主席が提唱した政策理念の集約語で、胡錦濤政権の一枚看板である。それが後にトウ小平理論や「3つの代表」思想と並んで党の指導思想のひとつだと位置づけられているが、習政権の発足以来、「科学的発展観」は早くもお蔵入りにされている。 特に習主席自身が今年に入ってから、この言葉をほとんど口にしなくなっていることは注目されている。
 したがって、胡前主席が率いる「共青団派」の次世代リーダーとして今の最高指導部の一角を占める李首相が、わざとこのキャッチフレーズを持ち出したことは、「胡錦濤離れ」を鮮明にして独自路線を突き進もうとする習主席に対する牽制(けんせい)であるとも理解できよう。 「そのままではわれわれは黙っていられないぞ」との脅しである。 実は同じ日の人民日報1面に、もうひとつ注目すべき記事が出ている。 9月30日に共産党政治局が会議を開き、「科学的発展観学習綱領」の草案を審議し、全党への配布を決めたという。 その中で、政治局会議は「科学的発展観」を高く評価した上で党員幹部全員に学習を呼びかけたが、その意味は要するに、習政権になってから冷遇されてきた前政権の「指導思想」が今、「共青団派」の反撃によって見事な復権を果たした、ということであろう。 それに対し、自分中心の指導体制づくりを急ぐ習主席がどう動くかが今後の焦点となるが、党の指導方針をめぐっての最高指導部内の政争は、今後、熾烈(しれつ)さを増してゆきそうである。


【プロフィル】石平 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年日本国籍を取得


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「高度成長終焉におののく中国 拓殖大学総長・渡辺利夫」 2013.10.25

現在の発展パターンでは、成長の持続性は期しがたい。中国の指導部がこの認識にめざめて久しい。 2006年に始まる第11次5カ年計画ですでに「発展方式の転換」の重要性が強調され、11年の第12次計画採択時のスローガンもこの「転換」であった。
 
≪発展方式転換、行うは難し≫ 昨年11月に党総書記に選ばれた習近平氏が、達成すべき諸課題のうち優先順位の最も高いものとして掲げたのが、やはりこの「転換」である。 要するに10年以上、その重要性が指導部に強く認識されながら、どうにも解決されない課題が、発展方式の「転換」なのである。 第11次計画期間中にリーマン・ショックに襲われ、急低下した成長率の復元を求めて、政府は空前の規模の緊急景気刺激策を打ち出した。 これが奏功してV字型の成長回復がなり、世界経済を下支えして中国経済のプレゼンスは一段と大きなものとなった。 中国がGDP(国内総生産)額で日本を上回ったのも、この景気刺激策のゆえである。 しかし、巨額の刺激策は「転換」の課題解決の道をはるかなるものとしてしまった。
 中国の発展方式の特徴は、内需において投資依存度がきわだって高く、他方、家計消費が一貫して低迷してきたことである。 景気刺激策は、すでに高い投資依存度を一段と押し上げてしまった。 景気刺激策として未曽有の金融緩和政策がとられ、マネーサプライが急膨張した。 これにより潤ったのが、機会あらば投資拡大を狙う地方政府であり、地方政府は傘下企業の不動産、インフラ、都市建設などへの投資拡大を誘った。 地方政府の過剰債務と過剰投資こそが、中国を高い投資依存経済たらしめた主役である。
 中国の投資依存度は、世界の市場経済国の歴史に類例のない高さにある。 本欄(12年11月7日付)でも警告の意をこめて指摘したことだが、過去の最高値は日本の「いざなぎ景気」時、ならびに韓国の「漢江の奇跡」時であった。 この時期でさえ、日韓の投資依存度が4割を超えることはなかった。 現在の中国はほとんど5割に近い。異様なる高水準である。 日韓は最高値を達した直後に起こった資本ストック調整により、厳しい成長減速を余儀なくされたのである。
 
≪やまぬ地方の「投資飢餓症」≫ 中国の地方政府の“投資飢餓症”はやむことがない。 地方政府相互が激しい成長の鍔迫(つばぜ)り合いを演じている。 地方政府は、上位から下位へ省、市、県、郷・鎮と連なるが、それぞれのレベルの地方政府がインフラ、不動産、都市建設への投資を競い合って高成長を顕示している。 共産党内の序列は上位の地方党委員会によって決められ、序列決定の考課基準は地方の成長実績いかんである。 企業投資であれ公共投資であれ、投資が積み上がっていけば、過剰投資・投資効率低下の悪循環にはまりこみ、投資主体の財務体質の悪化が避けられない。 市場経済であれば、過剰債務と過剰投資は市場の抗(あらが)いがたい力によって整理されるが、強い権力をもつ地方政府は成長率低下を恐れ、新たな融資先を求めて投資依存度をさらに引き揚げようと努める。
 中央政府の金融規制の枠外に投資会社(「融資平台」)を構築し、この平台(プラットホーム)で高利・短期の「理財商品」を開発、ここに個人や企業の民間資金を呼びこんで投資拡大をやめない。 正規の銀行を経由しない金融メカニズムがシャドーバンキング(影の銀行)といわれるものである。 その規模はGDPの40〜50%に及ぶともいわれるが、正確な額は捕捉されていない。 コントロールは容易ではあるまい。
 
≪負債圧縮とミニ刺激で綱渡り≫ リーマン・ショックからすでに5年を経過、「転換」がまったなしと見据えて、李克強首相は景気減速をも厭(いと)わず経済のデレバレッジ(負債圧縮)に取り組もうとしている。 負債額が巨大規模に達し、統御不能なものとなりかねないことへの指導部の懸念はいつになく強い。 しかし、地方政府は、中央のマクロコントロールによっては動かしがたい強固な利益集団と化している。何よりデレバレッジによる成長減速は、雇用や家計所得の低迷につながるために、成長率には政治的に許容可能な「下限」が存在する。 下限はおそらく6〜7%という狭い範囲の中にあろう。下限を下回れば政治経済の負のスパイラルが発生するリスクがある。
 政府は将来のより大きな資本ストック調整を回避するために、負債圧縮を漸次進める一方、成長減速にはミニ景気刺激で応じるという綱渡りをつづけるしかない。 中国高度成長の時代はもはや過去のものとなったのである。 家計消費を中心とする安定的な内需主導経済への移行が中国経済の最終的目標であるが、そこにいたるまでかなりの長期にわたってつづくであろう緊張に中国経済がはたして耐えられるか。 尊大な表の顔の向こうに、なにかに戦(おのの)くような裏の顔が見え隠れしている。

-以上−
2013年10月25日
九州ホーム