緊迫する東アジア情勢
この1ヶ月くらいの間に、中国の防空圏設定、TPP経済交渉の行き詰まり、北朝鮮No2の張成沢氏粛清、韓国朴大統領の政治危機、安倍首相の靖国参拝など、いくつもの問題が東アジアで発生した。 これらはいずれも、米国の影響力弱体化と中国の台頭がその根底にあるのは確かだが・・・・・・・。



       −−−−−−−−−安倍首相の靖国参拝−−−−−−−−−−−


 2013年12月26日に安倍首相は靖国神社を参拝し、中国や韓国さらには米国からも非難の声が出ている。 韓国や中国との外交関係緩和はいっそう遠のいたとするメディア論評がもっぱらだ。 日本人からすると、なぜ徴兵され戦死した戦没者に参拝することが問題なのかと反発する声も多い。
 
しかしそもそも靖国神社とは何であるのか、はっきりしないところがある。 徴兵されて心ならずも戦死した国民のための慰霊神社だろうというのが一般国民の認識だが、実態は少し違うような気がする。 戦争中に亡くなった職業軍人や軍属も神として靖国に祀られており、天皇を守って死んだ軍人達の鎮魂神社というのが靖国神社の主旨のようだ。 例えば、東京大空襲や原爆投下で亡くなった一般市民などは祀られていない。 もっと遡ると、内戦の戊申戦争や西南の役で戦死した人々のうち官軍側の兵士は祀られているが、賊軍側の会津戦士や薩軍戦士例えば西郷隆盛などは祀られていない。 また、明治の元勲たちは戦没者でなくとも祀られているらしい。 やはり、日本としての鎮魂神社と言うよりも、天皇制のために戦って死んだ軍人・軍属たちを神として祀る神社と言うことなのであろう。 太平洋戦争では、戦没者養護法で公務死と認定された人たちが祀られているらしい。 祀られたと言っても、遺骨もなければ遺品もなく単に神社の名簿に記帳される(遺族には通告のみで、記帳の了承を取ることもないらしい)だけであって、石碑に名前が刻まれている訳でもなさそうだ。 また靖国神社内にこれらの人たちの位牌があるわけでもない。 誰を祀るかを決めるやり方は、戦後になるとさらに分からなくなる。 靖国神社は昭和21年に単なる一宗教法人に変えさせられてしまったからだ。 戦後の東京裁判で戦犯として死刑になった軍人達も祀られているが、誰がそのようにして決めたのかも明らかでない。 しかし戦犯の合祀によって靖国が政治問題化したために、天皇陛下御自身の参拝ができなくなってしまった。 
 また、地方には護国神社がありそこにも戦死者が祀られているが、戦後は靖国神社と護国神社の関係もはっきりしなくなってしまった。 
一方で、国立の千鳥ヶ淵戦没者墓苑があるが、ここは墓地であり、太平洋戦争による世界各地での戦没者のうちで発掘回収された身元不明の遺骨を埋葬している場所だ。 身元が判明した戦没者遺骨は家族の元に戻されそこで埋葬されるが、戦争で家族が一家全滅したりして引き取り手の無い遺骨などはそのまま千鳥ヶ淵に葬られているようだ。
 このように曖昧な状況のままで放置されてきたために、今回の総理大臣の靖国神社参拝について、戦前回帰ではないかと韓国、中国だけでなく世界中の警戒心を招いている。 
今の国際秩序は第2次世界大戦の戦勝国連合だから、戦争に負けて無条件降伏してやっと国際復帰させてもらった日本やドイツは国際社会の中で小さくなっているしかないのだ。 それが気にくわなくて戦前の日本は正しかったと言っても、味方になってくれる国なんて世界中のどこを探したっていない。 それを思うにつけ、東條英機以下の戦争指導者達の敗戦の結果責任は重い。(戦争に勝ちさえしておれば国際社会でも日本が官軍でどの國からも文句は付けられなかったのだろうが、現実は日本は無条件降伏したのだから身の程をわきまえないといけないだろうさ)

 
太平洋戦争で徴兵されて心ならずも若い命を散らせた人を親兄弟に持つ家族は、日本国中に溢れている。 彼らに対して国や政府が贖罪するのは当然のことだ。 しかし、戦争指導者は徴兵した側であり、徴兵戦没者とはちょっと違うだろう。 戦争指導者らは結果として日本を敗戦に導き、国民を塗炭の苦しみに引き込み、敗戦によって天皇制そのものを危うくした責任がある。 彼らが生きていれば、「自分らは靖国に祀られる資格はない」 と言うであろう。
 一宗教法人である靖国神社が誰を祀ろうがそれは神社の勝手だが、一国の代表である総理大臣が単なる一宗教法人施設である靖国神社に公式参拝することは、私は反対だ。 
そもそも今回の安倍首相の靖国参拝は、日本にとってどのような国益をもたらしたと言うのだ。 政府は靖国神社とは別に徴兵戦没者を慰霊する施設を作り、そこを正式施設として天皇陛下や総理大臣が心置きなく参拝できるようにするべきだ。 徴兵戦没者施設を国が作ったとて国の徴兵責任が無くなるわけではないが、せめてそうすることで世界の国々も安心するはずだ



−−−−−−−−−−北朝鮮の張成沢氏の粛清−−−−−−−−−−−−

 北朝鮮の金正恩政権は、12月12日、No2の張成沢氏を側近7人とともに半公開処刑した。 張成沢氏は、金正恩氏の叔父としての立場を活用して中朝貿易を推し進め、その経済利益で軍部内にも勢力を張ろうとしたことから、軍部や金正恩氏周辺の不興を招いたと見られる。 処刑の理由として、中国への石炭安値輸出によって国家損失を招いたこと、羅先港湾経済特区の中国やロシアへの売国的貸与契約(羅先港湾の50年間租借地化)などをあげている。 そのほかに、張氏が中国の支援を得て兄の金正男氏を擁立するクーデターをもくろんでいる、と疑っていたとの噂もある。
 いずれにしても、今回の内部粛清によって国内の金正恩一極体制が確立しつつある。 このような粛清は、共産圏ではソ連スターリン時代によく見られた権力集中のための手段に過ぎない。 張派粛清の過程で北朝鮮は中国敵視も見せたが、中国からの経済支援は北朝鮮にとって不可欠である。 北朝鮮への手がかりを無くして衝撃を受けた中国にしても、北朝鮮崩壊による朝鮮半島の混乱は望んでおらず、金正恩政権の行動を様子見するだけと思われる。 金政権は中国に繋がりそうな張一派を根こそぎ粛清したことで、北朝鮮は一枚岩となり、政治的には強くなるだろう。 
 問題は北朝鮮の経済状態だ。 北朝鮮は中国以外に経済連係を広げようと韓国や日本との連係を模索してくる可能性があるが、北朝鮮が核兵器製造を手放すことはないため、結局は中国以外の経済支援は得られそうもない。 韓国は北朝鮮とよしみを通じて南北統合の可能性を広げたいところだが、北の核兵器開発は米国が許さず、また中国としては北朝鮮を手駒として長く使いたいため、韓国が意図する南北統合の方向へはなかなか進まないだろう。 もっとも南北統合を最優先課題として、韓国が米国と手を切り(例えば在韓米軍を追放するとか)、軍事的にも完全に中国陣営に入れば状況は変わるかも知れないが・・・・。
 北朝鮮の経済がうまく行かないと、食い詰めた国民の無秩序な暴動で北朝鮮崩壊が起きる可能性はある。 韓国の朴大統領は、万が一の北朝鮮崩壊に備えて南北統一のリーダーシップをとるべく中国に寄り添っているのだろう。 火中の栗は魅力的だが大やけどする危険も大きい。 いざ朝鮮半島有事というときにも、韓国自国と在韓米軍だけで決着をつけてもらって自衛隊による後方支援や在日沖縄米軍出動を期待しないでいただきたい。 また念を押しておくが、日本の北朝鮮への戦後補償は韓国への経済支援を通じてすでに支払い済み、と言うこともお忘れ無きよう。
 日中韓北の東アジア関係は政治と経済が絡んで、呉越同舟、合従連衡、敵の敵は味方、昨日の敵は今日の友など、麻のように乱れ、ほつれている。 この混乱状態に、さらに千年経っても忘れない歴史認識などを投げ込んで、争点を拡大している韓国は、本当に大丈夫なのか? 北朝鮮の国民の決意と確信の度合いは韓国に勝るから、まずは韓国内の国論をしっかり統一し自衛できる武力も備えておく必要もあろう。 在日米軍など日米の支援無しでは南北統合は北朝鮮に有利に働き、下手をすると韓国は北朝鮮によって統合される危険性さえあると、私は見ているが・・・・・。
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    中国共産党の内部混乱は、改革の産みの苦しみか

 中国共産党の中央規律検査委員会は12月20日、公安省の李東生次官を「重大な法および規律違反」で取り調べていると公表した。ただ、これ以上の詳細は明らかにしていない。 「重大な規律違反」は通常、汚職を意味する。 李氏のコメントは得られていない。 同氏は2009年に公安省に入省。 同省のウェブサイトによると、9人の次官のうち、同氏は上位から2番目の地位にある。 同氏は、中国政府が非合法としている気功集団「法輪功」などを取り締まる政府組織の副責任者も務めている。 さらに関係筋は、12月にロイターに対し、中国政界の実力者である周永康・前共産党政治局常務委員も、事実上の自宅軟禁下にあることを明らかにしている。
 共産党は汚職疑惑で周氏を取り調べている最中であるが、政治局常務委員まで務めた人物が逮捕されることになれば、中国共産党政治史上前代未聞の事態である。 江沢民元主席によって政治局常務委員にまで引き上げられた周氏は、失脚した薄煕来氏とは密接な関係にあったとされ、過去には公安部門のトップも務めていた。 周氏は2012年9月の尖閣反日デモを煽って政情不安を引き起こしたり、また習近平氏親族の不正蓄財疑惑を米国マスコミに漏出させて、習氏の次期主席就任を妨害したとの噂もある。
 
現在、習政権では周氏の汚職調査結果を2014年3月までに公表するとしているが、共産党の長老(江沢民氏であろう)から待ったがかかったらしい。 周氏の他にも、江沢民派の元国家副主席曾慶紅氏も汚職調査されているという噂もある。 また海南省の冀文林副省長が重大な規律違反で取り調べを受けているが、彼は周永康前党政治局常務委員が公安相時代に秘書・公安省弁公庁副主任を務めていた。 江沢民派と習派の間で、現在、生き残りをかけた権力闘争が行われており、中国共産党幹部達は声を潜めてその成り行きを見守っている最中だ。
 中国にはもうあまり残された時間がない。習主席が長老たちの妨害をはねのけて政治権力を一身に集中させ、既得権益層の腐敗撲滅を行って真の中国皇帝になれるかどうかは、この数ヶ月で決まる。 中国の権力闘争がどうなるかは興味深いところだが、共産党内部抗争を反日運動に向けられては日本が迷惑する。 国内団結のために、不満を日本に向けるのは、いい加減にして欲しいものだ。


(以下は、<遠藤誉が斬る>第14回より引用)
 2013年12月20日19時40分、中国共産党中央(中共中央)紀律検査委員会・監察部のウェブサイトは、公安部副部長・李東生の取り調べに入ったことを正式に公布した。 李東生は「中央防犯処理邪教問題領導小組」の副組長で、当該領導小組(指導グループ)弁公室の主任。この弁公室は1999年「6月10日」に法輪功を取り締るために江沢民が設立した弁公室だ。設立された日時にちなんで「610弁公室」という別名を持つ。公安部は中共中央政法委員会の管轄下にあって、この委員会の書記は胡錦濤政権の時は中共中央政治局常務委員会の9名の常務委員の中の一人だった。そのときの書記の名は周永康
 筆者はこの9名の常務委員に「チャイナ・ナイン」という呼称を付け、チャイナ・ナインがチャイナ・セブンになるか否かで、周永康の運命が決まるだろうことも予言していた。そして2012年3月に薄熙来の失脚が決まるとすぐに「次のターゲットは周永康」というオンライン記事を書いたこともある。 そのつながりは、実はこの「610弁公室」にあった。 『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』の117頁に「第三章1999年」というのがあるが、そこで詳述したように、薄熙来は江沢民の「610弁公室」を支持したことによって江沢民による後ろ盾をより強固なものにした。江沢民が1999年に「610弁公室」を設置しようとしたとき、時の国務院総理(首相)だった朱鎔基は反対した。以来、「610弁公室」の存在は、表に出してはならない内部闘争として激しい権力争いを展開させてきた。
 江沢民政権時代は「チャイナ・セブン」だった政治局常務委員会委員を、胡錦濤にバトンタッチするときに江沢民は「2人」増やして「チャイナ・ナイン」にした。それは、公安部を司る中共中央政法委員会に権限を持たせたかったからだ。だから強引に周永康を常務委員にねじ込んで、チャイナ・ナインにしたのである。 これは江沢民が自分の正当性と権威を持続させるために取った措置である。

◆軍事費を上回る治安維持費は腐敗に消えている
 しかし、「公安、検察、司法」を司る中共中央政法委員会は、治安維持を名目に長いこと「腐敗の温床」となってきた。たとえば2012年4月に北京にあるアメリカ大使館に逃亡した盲目の民主活動家・陳光誠の場合、彼一人を監視するために1年で6000万元(約9億円)の「治安維持費」が中央から出るので、「陳光誠経済圏」が公安側に出来上がるほどだった。 もちろんそれらは全て公安のポケットの中に入っていく。
 軍事費を上回る治安維持費は、こうして「腐敗の源流」となって取り締り関係者の財布を潤わせているのである。治安を維持するはずの「公安・検察・司法」による横暴と腐敗ゆえに、年間18万件もの暴動が起きている。本末転倒だ。そしてその暴動は中国共産党統治の根幹を揺るがせようとしているのである。 だから2012年11月に開催された第18回党大会で、胡錦濤も習近平も「腐敗を撲滅しなければ党が滅び、国が亡ぶ」として腐敗撲滅が不可避であることを宣言した。一党支配が無くならない限り腐敗は無くならないとしても、チャイナ・ナインをチャイナ・セブンにしたのには、そういう意味が込められていた。 その数か月前の薄熙来失脚で、今日の方向性は決まっていたものの、周永康は何と言っても政治局常務委員だった人物。第18回党大会で定年退職したのではあるが、元常務委員だった者を逮捕することはなかなかできない。 そこで周永康の外堀を徐々に狭めつつあるわけだ。
 薄熙来更迭に関するチャイナ・ナインの会議で、最後まで薄熙来を擁護したのは周永康一人だった。二人とも江沢民の配下であるとともに、「610弁公室」で結びついている。今般中共中央紀律検査委員会の取り調べを受けることになった李東生(公安部副部長)は周永康直属の部下だ。「610弁公室」を通して直接つながっている。

◆「鉄道部」「石油閥」退治の次は、中共中央政法委員会へ
 一方、周永康には石油閥のボスとしてのもう一つの顔がある。その部下で石油閥の現役ナンバーワンだった蒋潔敏(元国務院国家資産監督管理委員会主任)は、2013年9月1日に中共中央紀律検査委員会の取り調べを受けて、全ての役職を罷免された。このとき多くの石油閥が捕まっている。
 2013年3月に、中国は鉄道部という巨大な腐敗の温床を解体させ、7月には元鉄道部部長(鉄道省大臣)に(2年の執行猶予つきの)死刑判決を言い渡した。9月になると、もう一つの腐敗の温床である石油閥にメスを入れたたわけだが、次に斬り込んでいくのは中共中央政法委員会だ。特にその管轄下で不正を働いている公安部。今般の公安副部長・李東生の取り調べは、その予測が正しかったことを証明してくれている。ターゲットである周永康の外堀は、徐々に狭まっていることを示唆している。 「習近平−李克強−王岐山(中共中央紀律検査委員会書記)」は人民の間では腐敗撲滅のための「鉄三角」と呼ばれている
 それでも最後にもう一度くり返しておこう。一党支配をやめない限り、腐敗の温床は消えない。

遠藤誉(えんどう・ほまれ)
筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子チャーズ―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』など多数。

-以上−
2013年12月30日
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