2014年経済展望:日本の貿易赤字定着し、経常収支も危うい状況
 
 貿易赤字定着し、経常収支赤字も

 2014年は日本ではアベノミクス「第三の矢」の実現、及び消費税導入による景気への指標が気になる年でもある。 さて、日本の月毎の貿易収支では、2013年11月ひと月間で輸入が7兆1970億円で、輸出が6兆1043億円、ひと月で約1兆円の赤字だった。年間では貿易赤字は10兆円を超す。 また経常収支のほうも、10月、11月、12月と3ヶ月連続赤字である。 貿易収支の年間赤字はともかく、経常収支の最近3ヶ月の赤字は気になる。
 政府日銀は、2014年4月以降は円安による輸出増加や原発再稼働による燃料輸入減少の効果が出て、2014年の
経常収支は黒字になるだろうなどと言っているが、年間を通して日本の経常収支が赤字定着すれれば、これは日本売りに繋がり大変なことである。 日本の貿易赤字国化はもうやむを得ないが、経常赤字国化は、何としてでも避けなければいけない。
 実際、財務省が発表した2013年国際収支状況によれば、経常収支(貿易・旅行サービス収支と所得収支など、全ての国際収支の合計)の年間黒字は前年比31.5%減の3兆3061億円に縮小した。円安を背景に原粗油など燃料輸入が高水準で、過去最大の
貿易赤字となったことが影響したとしている。 いっぽう2013年貿易収支10兆6399億円の赤字で3年連続の赤字となった。 また2013年の日本の所得収支(給与や投資の国際収支はについては16兆5318億円の黒字であり、前年より黒字幅が15.8%増えたものの、貿易赤字拡大が急過ぎて追い付かれそうなところが気になる。
 
 
日本が2013年に出した経常収支すなわち純収益がわずか3兆円というこのニュースに対して、日本経済新聞は専門家の分析を引用し 「産業空洞化現象と『2020年東京オリンピック』にともなう輸入増加要因を勘案すれば、2016年以降の経常収支が赤字転落する可能性がある」 と展望した。 それと共に、「経常収支と国の借金である財政収支ともに赤字になる双子赤字の状況で日本経済が払わなければならない費用を市場で心配している」 と伝えた。  日本の財務省は、国の借金が2013年末基準で1017兆9459億円だと発表した。 この3カ月で6兆7673億円増え、史上最高記録を更新した。 国内総生産(GDP)の倍を超えるだけでなく、先進国の中で最悪だ。
  毎年
財政赤字を出しても着実に経常黒字をあげたおかげで日本経済は持ちこたえることができた。 経常収支まで赤字に転換すれば話は変わる。 ロイター通信は「対外指標が悪化しながら日本経済が自らの図体の2倍に及ぶ借金を耐え抜けるかについての疑問が大きくなっている」と指摘した。 政府や日銀の舵取りに期待するところである。
  
経常収支=1つの国がほかの国々と取り引きしながら出た収益や損失を示す経済指標。貿易・サービス・所得・経常移転の4部門から出た黒字と赤字を合わせて算出する。1つの国が実質的に稼いだお金を意味するので、外国人投資家が経済基礎体力をみる時に重要な基準としている。

 日本では大震災以降のエネルギー資源などの燃料輸入が増加し、そのために
貿易赤字が継続していると報道されてきた。 しかし年間移動累計で輸出入の推移を見ると、リーマンショック以降、日本の輸入の底は2009年12月で、2010年1月以降は一貫して輸入が増加している。 2011年の震災以降の9月に輸出入逆転して貿易赤字国に転じ、その後も一貫して貿易赤字が続いていた。 原発停止による燃料輸入増加は、たまたま日本の貿易赤字国化を後押ししただけということだ。
 対中貿易に限ってみても同様である。 リーマンショック以降輸出入の落ち込みは回復したものの、東日本大震災の影響で、対中国輸出が低迷した。 その一方で、輸入が一貫して増加したため、対中国貿易額は2013年には5兆円近い赤字だ。 これは最近15年間ずっと同じであり、貿易赤字の構造は変わっていない。 日本にとって中国は、全世界との貿易のうち輸入は23%、輸出は18%を占める世界最大の貿易相手国である。 中国への輸出の上位3カテゴリーは「電気28%」、「一般機械16%」、「原料別製品11%」の3つで(いずれも2013年10月)である。 ( http://blogos.com/article/75508/ なども参照)
 対中国については最近、残念なニュースが続いている。 尖閣諸島をめぐる問題と靖国参拝等だ。 何が正しいかは、専門家に任せるとしても、日本の報道を見る限りでは、「中国けしからん論」が横行し、日中のトップ同士もの対話が出来ず、現実の世界は止まっているような錯覚を受ける。 しかしこの数年の反日運動にもかかわらず、実際は中国からの輸入は過去最高を記録したし、中国の観光客も、2013年末からは日本に戻ってきている。 日中貿易量総額も、2013年末から増加に転じている。 日中経済の現実は動いているのだ。
 中国への直接輸出は確かに減っているが、尖閣国有化宣言の2010年やその後の反日デモ以前から、対中輸出低迷傾向は進んでいた。 低迷の原因は、東日本大震災を契機に日系企業が世界におけるバリューチェーンを見直したことや、世界的に収益向上のための体制を変更したことだ。 分かりやすく言うと、中国への直接輸出は減らして韓国や香港、台湾、東南アジアの工場に部品輸出し、韓国や東南アジアから高機能半製品を中国に輸出するスタイルだ。 これでは日本から中国への輸出にはならないが、迂回的には中国へ輸出しているのだ。 いっぽう、中国からの輸入は、アップル中国工場スマホやソーラーパネル、さらに加工食品などだが、これらには日本が資本出資している中国企業で製造した製品も多いのが実態だ。 もちろん、日本企業が中国や韓国の部品下請け工場で良いのか、ということとは別の問題だ。
 結局のところ、日本企業のグローバル体制リスク分散方策として、東南アジアなどへの工場シフトや現地企業活用を図っていることが対中貿易上の数字に反映したわけである。 さらに言うと中国工場には限らないのだが、現地で得た企業収益は日本に戻さずに、現地での設備投資に回しているから日本の輸出としてカウントされない。 すなわち日本企業は儲かっていても日本の収入にならないので、日本の貿易収支は赤字なのだ。


 
ちなみに中国の視点からすると、日本は一貫した貿易黒字相手国であったし、さらに2年前からは、香港を含めても中国は対日貿易黒字国となってしまった。 中国にとって2014年以降経済がスローダウンしGDP成長率7%を落ち込み、就職難になる可能性があると言われている中で、日本との貿易や中国投資が落ち込むのは避けたいところだ。
 現実問題としてお得意先の日本を叩いても、中国にはなんら経済的なメリットはない。 もしも日本国民の嫌中感情から、中国投資や中国工場製アップルスマートフォンや太陽光パネル輸入が止まるようなことになったら、中国は打撃を受ける。(しかしながら、スマートフォンの部品や太陽光パネル製造装置は日本製で日本国内の製造業も打撃を受ける関係なので、日本が中国製品ボイコットをするのは無理だし、中国政府も反日デモの反省から露骨な日本製品ボイコット運動などはしていない)。
 
なお、中国商務省報道官は2月24日、最近の経済情勢についてコメントを公表し、日本と中国との貿易の先行きについては 「中国にとっては楽観できない」 との見方を示した。 中国の統計によると、日本との間の輸出入を合わせた貿易総額は2013年の通年で前年比マイナス5・1%だった。 2014年1月は前年同月と比べ増えたが、「日本から中国への投資金額を見ると1月は瞬間的に増加しているが、2014年通年では前年よりも減るだろう。 日本からの投資が少なければ日中貿易額は減る傾向にある」、とした。
 
お得意様の日本に対して反日しても、対中国投資は別として、対日輸出は増えているので、中国としては反日の方が経済ダメージ少ないままで、国内政治的には優位に立てるというところだ。 日本の若者も、中国工場製のアップルスマートフォンなどは購入ボイコットするくらいの気概を持て、と思うこともある。日本政府も、ケンカをするのなら中国製ソーラーパネルをWTOにダンピング提訴するくらいの気骨を持て、と言いたいくらいだ。 その方が中国はよほど困るだろう。

 このように中国政府による日本たたきは事実としても、その要因はどちらかと言えば中国の国内対策が大きな要因だ。 日米による中国封じ込めや防空識別圏の問題などに対して、国民から中国共産党が逆に突き上げられることを怖れている。 その証拠に、煽って制御不能になりかけた反日デモに懲りて、中国政府はそれ以降は市民からの反日デモ申請を全て却下している。 また中国政府が反日アピールを国際舞台で行うときにも、靖国参拝までは韓国を先頭に立てるようにしており、国際孤立を怖れていた。 
このように苦しい状態の中国に対して、あえて敵に塩を送るような靖国参拝を安倍首相が強行したことは、全く馬鹿げており、国益にかなったこととは言えまい。 首相たるもの、ともすれば勇みがちになる政界お友達とは手を切ってもらって、日本の経済国益を中心に戦略的外交を行ってほしいものだ。
 
中国での革命は常に農村貧困層の反乱から生じた歴史がある。 中国共産党政府は、貧困層の不満をそらすために中華思想で対日優位を国民にアピールし、コントロール可能な反日を国民に推奨していると思うが、日本からの中国投資が低下することは、後述のようなシャドーバンク焦げ付き問題を抱えて対応におおわらわの中国としては全く望まないことだ。

 さて、2013年の日本の貿易赤字は約10兆円であった。 原発停止による燃料費輸入では年間3兆円が費やされており、貿易赤字全体の1/3を占めるという。 ならば原発が2014年に再稼働すれば貿易赤字は縮小し、所得収支を含めた経常収支までが年間赤字となる緊急事態は避けられよう。 しかし、さらに願わくば、将来的には日本国内で調達できる再生可能エネルギー発電を増やして、燃料費輸入を減らす日本のエネルギー戦略を真剣に考えてほしいものだ。 全くのところ、安倍首相も靖国に行く暇があったら、早く三の矢を放って日本経済発展させてほしい。
 
とにかく日本は経済的に力を付けさえすれば、世界政治の中でもうまく回してゆくことができる。 日本経済が弱くなれば中国や韓国だけでなく、東南アジアやロシアからも足元を見られるだけだ。

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      日本の国際経常収支の赤字国化は悪いことか?

(その1)
 「日本は資源がないから、安い原材料を輸入して高い製品にして輸出して稼ぐ加工貿易の国だ」、というフレーズをお聞きになった経験はないでしょうか。 確かにこの方法で高度経済成長を成し遂げ、1990年代までは稼いでいたといえるでしょう。 しかし財務省が2014年2月に発表した「経常収支」(海外での稼ぎが分かる数値)は、黒字(もうかっている)ながら、前年より31.5%も減少して3.5兆円に留まり、「加工貿易の国」論がピンチに陥っています。  経常収支は次の4つで成り立ちます。
(1)貿易収支……輸出額−輸入額
(2)所得収支……海外の日本企業などが国内に送金する「仕送り」−外国の企業が日本で稼いで母国へ送金した「仕送り」
(3)サービス収支……日本旅行に来た外国人が日本に落とした金−海外旅行者が現地で落とした金
(4)経常移転収支……途上国援助
 このうち経常移転収支は性質上常に赤字なので、実態を知るには(1)(2)(3)となります。

貿易収支
 10.6%の大幅な赤字となりました。 理由は
・輸出額が伸び悩んだ
・輸入額が増えた
 しかあり得ません。 うち輸出額はアベノミクスの効果などで円安に振れているにも関わらず、です。 1ドル=80円が1ドル=100円になるのが円安で、ドル圏で同じ1ドルの輸出額で売っても、円安になれば20円もうかるわけですから。

 理由は2つあります。 長期で見れば1985年のプラザ合意、短期で考えても2008年のリーマンショックから円高基調が続いてきて、製造業の多くが円とドルの関係などを示す「為替」に左右されない海外進出を進め、国内から輸出しようにもその余力自体が少なくなっているという点です。 プラザ合意とはドル高に悲鳴をあげたアメリカがドル安(日本でならば円高)誘導をお願いした会議で、それまでの1ドル235円から一気に円は急騰しました。 次のリーマンショックでは、一時期世界大恐慌にもなりかねない金融収縮が米欧同時に発生し、比較的安全な資産とされた円が買われました。 つまり長期あるいは短期のトレンドで円高は避けられず、製造業の体質が変わってしまって、もはや一時的な円安でどうなるものでもないのです。
 もう1つは、ドイツやオランダなど欧州の輸出国では、EU域内先進国が主な輸出相手国となっているのに、日本の場合は中国を始めとするアジアの新興国が主要輸出先になっている点です。 新興国市場を開拓するのはいいのですが、そこで売れる値段は当然安くなります。
 また「輸入額が増えた」最大の理由は、2011年の東日本大震災後の火力発電増大で原料の天然ガスや石油が値上がりして、輸入量が増えた上に円安がここではマイナスに作用して、2010年と比較して輸入金額が約3兆円増えたことです。 各電力会社任せで割高な燃料費を今後は世界各国と団体購入交渉して引き下げるとか、新産油国アメリカの「シェールガス」を安く売ってもらう、といった工夫が必要でしょう。 また、日本に一番近い天然ガス産出国のロシアからパイプラインを引き購入できれば、今は液化して船で運んでコストがかかる分を減らせそうです。 また日本は島国ですが、世界第6位の広大な排他的経済水域を太平洋上に持っているので、長期的には自前の海洋風力発電や海底資源開発を視野に入れるべきでしょう。

所得収支
 2007年には貿易収支を上回り、13年に貿易収支が赤字になったにも関わらず、経常収支を黒字化できた最大の要因が所得収支の黒字です。 貿易黒字伸び悩みの原因となった企業の海外進出が、ここでは 「孝行息子・娘の日本への仕送り」、として恩恵にあずかっているのです。 円安も追い風となりました。 いっそここに力を集約して、国内は研究・開発の拠点に留めて、「夢の仕送り生活」で経常黒字を維持しようという考え方も存在します。 しかし、仕送りしないで現地で金を使い果たしてしまう道楽息子的企業が多いのは、困ったものですが。
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サービス収支
 これは90年代から一貫して赤字続きの「不良息子・娘」です。 マイナス額は減ってきているものの、出国日本人数の半分以下しか訪日外国客数がいないという状況であるのも事実です。
 政府観光局の調べによると外国人訪問者数の国別順位で日本は33位。 隣国の中国(3位)、韓国(23位)にも差をつけられています。 この辺は政府も胸を痛めていて、2008年には観光庁を発足させ、「観光立国」を目指しています。 日本は世界遺産の登録数は世界13位。 決して魅力的でない訳でもないのに、あまり来てもらえない理由の1つに、五輪招致の際に使われた「おもてなし」 どころか、外国人がゆっくりリゾートできない障壁が指摘されます。 観光地の食事を夜じっくり楽しみたいのに、ホテルで取らされた。 かと思ったらチェックアウトの時間が、「通勤かよ」というほど異様に早くて、店も開いていないなか放り出された。 どこへいっても代わり映えのしないおみやげばかり。 こうした細かな部分を改善していき、少なくとも黒字化には持っていきたいものです。
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以上をまとめると
・もう輸出でバリバリもうける時代は終わった。 「国内製造業復活」などあきらめて研究に特化する
・燃料の安い調達や、自前の資源開発にいそしむ
・「仕送り」してくれる海外の日本人を大いに応援する。 和製ハゲタカも空洞化も大歓迎
・フランスなど観光先進国を見習って、海外から旅行に来てくれる工夫をこらす
 といったところ。 それが出来ないならば、開き直って「加工貿易の国」論を過去のものと捨て去り、既に多くを占める国内需要(国内でほしいものを売買している)を拡大すべく、「開国」して海外の投資をどんどん呼び込む方向へ切り替える、という考え方もできます。 輸出が復活すればしたで、過去のような日本バッシングに再び遭いかねませんから。
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国際収支と経常収支
 なお、経常収支を含む年間の国際取引の動きを示した記録を、「国際収支」と呼びます。 経常収支に加えて資本収支と外貨準備増減で構成されます。 すべて合わせると常にゼロです。 日本は一応経済の先進国なので、支払いと受け取りのすべてを示す国際収支で踏み倒すなど野蛮な行為をしていないため、必ずゼロになります。 したがって貿易の状態だけを確認したければ、経常収支に着目するのが正しいのです。      (その1終わり)
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(その2)
 日本の経常収支が慢性的な赤字に転落する可能性が高まってきました。 財務省が2013年12月9日に発表した10月の国際収支では、国の最終的な収支を示す経常収支が1279億円の赤字となりました。 経常赤字と聞くと、非常によくないイメージですが、実際にはどんな影響があるのでしょうか?
 国の最終的な収支である経常収支は、簡単に言うと、貿易収支と観光などのサービス収支に所得収支(投資による収益)を加えたものです。 要するに貿易で儲けた額と投資で儲けた額の合計ということになります。
★理論上は経済成長に直接影響ない★
 日本はよく知られているように、一貫して工業製品の輸出で国を支えてきましたから、日本の貿易収支は何十年もの間、黒字が続いてきました。 しかしバブル崩壊後からは少し様子が変わってきます。 日本は製造業で以前ほど利益を上げられなくなる一方、これまで儲けた外貨を海外に再投資し、その利子や配当でも利益を確保するようになってきたのです。
 2005年には投資による利益が貿易黒字を上回り、2011年にはとうとう貿易収支が赤字に転落しました。 2013年は貿易による赤字を、投資による利益がカバーすることで、最終的な収支を黒字に保ちました。
 しかし円安によって輸入価格が増大したことや、思ったほど輸出が伸びなかったことなどから貿易赤字が拡大しており、2013年11月分はとうとう経常収支のほうも赤字になってしまったわけです。 2014年に日本が年間を通しての慢性的な経常赤字に転落するかはまだ分かりませんが、途上国を卒業し成熟国となった国のほとんどが経常赤字になっている現実を考えると、将来的には日本も赤字に転落することは確実といってよいでしょう。
 赤字転落というと非常に良くないイメージがありますが、経済学的に言えば、経常収支の状況がその国の経済成長に直接的な影響を与えるわけではありません。 経常収支の変化が経済にどのような影響を与えるのかは、その国が置かれている状況によって異なっているのです。

★赤字の急拡大はデメリット★
 例えば米国は毎年4700億ドル(約47兆円)にものぼる莫大な経常赤字を垂れ流していますが、米国市場には魅力があり、それを上回る投資資金の流入があるため、経常収支の赤字は大きな問題にはなっていません。 また、米国はドルが国際通貨であり軍事力もあることから、どれだけ米国債を発行してもどの国も文句は言えません(2013年からのシェールガスの輸出によって米国の経常収支は劇的に改善し、財政再建も見えつつあります)。 しかし日本の場合には米国とは異なり、経常黒字から経常赤字に転落することのデメリットは、相当大きいと考えるべきでしょう。
 日本はこれまで数十年にわたって経常黒字を続けてきており、経済や社会の基本構造もそれを前提に組み立てられています。 経常赤字が急激に拡大すると、製造業からサービス業へのシフトが一気に進んでしまい、社会に大きな混乱をもたらす可能性があります。 また日本政府の財政赤字が巨額であることや、高齢化の進展で貯蓄率の低下が深刻になっている状況を考えると、経常赤字への転落が、日本国債の金利上昇および円安への為替下落の引き金を引く可能性があります。 長期的に経常収支が赤字になるにしても、急激な赤字化は避けたいところです。

 
経常収支を改善させるためには輸出を増やすか輸入を減らすしかありませんが、両者とも構造的な問題に起因しており、容易に改善できるものではありません。 現在のところ、所得収支すなわち海外投資収益を増大させることが、もっとも現実的な解決策といってよいでしょう。 具体的には、米国債に大きく偏っている官民の海外資産の比率を見直し、企業の直接投資の比率を上げて、投資収益率を向上させることなどが考えられます。 また、安全な原発は再稼働し再生可能エネルギーも拡大して、化石燃料輸入をできるだけ減らすことが、日本の経常収支赤字化を遅らせるためにもっとも有効な手段と考えます。  (大和田崇/The Capital Tribune Japan編集長より)
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★★ 山口巌ブログより ★★
 財務省が2014年2月10日に発表した「平成25年中 国際収支状況(速報)の概要」が2013年の日本の経常収支は、3兆3061億円と予想を大幅に上回る黒字縮小となったため、斜陽化する貿易立国日本 経常収支3年連続黒字縮小へ、に類する記事がネットに散見されるに至った。極単純に貿易収支が赤字幅を拡大した事に起因するものであるが、今後日本国民の生活にどの様な影響を与えるのかが見えて来なければ、矢張り人々は不安になってしまう。そういった背景から、今回「悪化する経常収支と失われる国内雇用」をテーマに据え、論考する事にした次第である。
 貿易収支は10兆6399億円の赤字で、前年比4兆8258億円の赤字幅拡大となった。米国・中国向けを中心に輸出が増加したものの、原粗油や液化天然ガスを中心とした輸入の増加が上回ったことから、貿易収支は赤字幅を拡大した。このうち、輸出は66兆9694億円で、前年比5兆5273億円増加、3年ぶりの増加となった。輸入は77兆6093億円で、前年比10兆3532億円増加した。4年連続の増加である。


■ 日本は最早貿易立国ではない   福島原発事故を契機に日本は全ての原発の稼働を停止した。この穴埋めは化石燃料を使用する発電所での発電以外他手段がなく、その結果、年間4兆円程度の石油や天然ガスといった化石燃料を追加輸入している。これが、貿易収支に一定のインパクトを与えているのは事実である。しかしながら、輸出入総額の推移を見れば日本が2000年代に入り、なだらかに輸出額と輸入額を均衡させ、遂には貿易赤字国となった事が読み取れる。日本は生産するよりも消費する国になったという事である。そして、アベノミクスにより円安となった事で円ベースでの輸入額が膨張し、結果として貿易赤字の拡大に拍車をかけている。


■ 安倍政権の狙いは速やかな「貿易立国」から「投資立国」への転換?   安倍政権誕生一か月前に現在主要閣僚の職にある方と話をする機会に恵まれた。その際、極めて明瞭に日本は最早「貿易立国」ではない。現在は通商に依存する「貿易立国」から投資収益に依存する「投資立国」への移行期であり、21世紀はアジア・太平洋に国益を求める事になると断言された。仮にそうであれば、日米同盟の深化、TPP加盟、中国との対峙などが現象として生じるのも当然という事になる。ネットで識者・論者が指摘する貿易赤字事態に問題はなく、その拡大のスピードが政府、自民党の想定の範囲内なのか? 或いは 想定していなかった様な早いスピードで、実は政府は焦っているのか? この辺りが見極めるべきポイントの様に思う。


■ 加速する国内企業のグローバル化   日本は製造業に取って魅力のない国になってしまった。アベノミクスの結果、一時的に円安状態を維持しているが、何時従来の円高に回帰しても何の不思議もない。労働者の賃金は新興産業国に比較すればべらぼうに高い。原発の再稼働がなければ今後電力供給は不安定となり、工場の操業を直撃する展開となる。仮に停電が避けられたとしても電力料金の大幅な値上げは不可避である。更には、市場が縮小する日本国内には成長の果実は実らない。従って、日本企業にはこの果実を求め海外に打って出るしか選択肢はない。
 製造業が海外移転を急ぐ事は、グローバル化が進む経営環境上生き残りのための必然であり、その是非を議論する事は時間の無駄であろう。問題は、従来の製造業が抜けた穴を埋める産業が育っておらず、放置すれば貿易赤字の拡大に歯止めが掛らない事実。一方、失われた雇用の埋め合わせはなく、極論すれば最近まで年収1千万円を稼いでいたエンジニアが勤め先の海外移転に伴いリストラされ、居酒屋チェーンやコンビニに時給@1,000円の非正規雇用として職を得るしかないという展開が予想される事である。


■ SONYという悪しき実例   最近、SONYのリストラが話題となる事が多い。多分、今後パソコン部門に限らず売れるものは売って、売り物がなくなった時点で消滅してしまうのであろう。言葉は悪いが「馬糞の川流れ」とは、こういった惨状を表現する言葉なのであろう。 中国の委託先で製造すれば事足りるため、もはや人数はいらない。テレビ事業も今後の大規模な人員削減の予備軍といえるだろう。3月半ばから募集する早期退職制度の対象部署は、前述のとおりパソコン事業とキャリアデザイン室の2部門。今年1月から国内工場を対象に希望退職を募集している製造部門の人員削減も加えると、15年3月末までに国内1500人、海外3500人の人員削減を計画している。さらに15年度までに販売部門では2割、本社間接部門では3割の費用削減に取り組む。当然、人員にも手をつけることになりそうだ。その結果、現在およそ14万人いる社員数をどこまで減らせるかが焦点になる。
 SONYといえば、昔から就職人気企業ランキングの上位を独走して来た。特に、1998年から2003年までの5年間は理系、文系双方でトップを独走している。遊びたい盛りの小学生の時代から塾に通い、中高一貫の進学校に進学し、名門大学からSONYへの入社を決めた人も当時は多かっただろうと推測する。SONYに職を得た大学生は就職戦線での究極の勝ち組であった訳である。
 その後10年強を経、彼らが30代半ばから後半という転職市場で潰しの効かなくなった年齢となり記事にあった様にリストラされる訳である。果たして、転職市場で華麗な学歴やSONYで1千万円以上の年収を貰っていたという職歴が評価されるだろうか? 私は全くそう思わない。一部の極めて有能な例外を除き、彼らの転職活動は阿鼻叫喚な展開以外イメージが湧かない。SONYの経営者は会社だけでなく、本来優秀な社員の人生を破綻させてしまったという事であり、本当に業が深いと思う。問題なのは、今後SONYに引き続き嘗ての名門企業でリストラに踏み切る企業が続出する事である。


■ 国内に付加価値の高い雇用は創出されるのか?  残念だが大変難しいと言わざるを得ない。しかしながら、可能性はある。内山氏が良いヒントを示唆してくれている。世界レベルの研究開発や埋もれた知財を活用しての新たなビジネスの創出には大きなポテンシャルが感じられる。勿論、優れた研究者や研究の中身の目利きが出来た上で、プロダクトマーケテイングとマネタイズに長けた人材の存在は不可欠であろう。教育の抜本的改革が必要となるのかも知れない。


■ 劣化する日本社会の底辺  今後、余程努力をしないと日本社会の底に穴が開き、社会が混乱すると共に、底辺に位置する日本人には絶望しか残らない展開もあり得る。私は、この件に関し不必要に不安を煽る事は慎むべきと思う。しかしながら、マスメデイアは事の深刻さを殆ど理解出来ていないと感じるのも今一方の事実である。劣化する日本社会の底辺については真摯な国民的議論が必要と感じる
 円安効果で輸出製造業の手取りは増えたが、輸出数量は何と1.5%減少している。これでは、製造業は設備投資を手控える。その結果、新たな雇用は創出されず、賃金も上がらない。それでは、果たして安倍政権はどうやって事態の打開を図る積りだろうか?
 この現実を目の当たりにしては、安倍政権としては円安から輸出増、更には設備投資・雇用増といった従来型の「成長戦略」の見直しをせざるを得ない。一方、この現状を座視して経常収支の赤字を容認する訳にも行かないだろう。仮にそうであれば、安倍政権として採用可能な政策は極めて限定される。
 日本国内に留まっていては立ち行かない製造業の海外移転を後押しする。或いは、もっと積極的に元気な日本企業の海外展開を促進し、海外投資からの配当金の増加を期待するのではないのか? 「貿易立国」から「投資立国」へのパラダイムシフトといっても良いかも知れない。
 この転換が巧く行けば経常収支の赤字は回避出来るかも知れない。しかしながら、製造業の海外移転に伴う比較的質の良い雇用の喪失という副作用もある。雇用調整により職を失った労働者は以前に比べ遥かに条件の悪い非正規雇用や気乗りのしない居酒屋チェーンの様なサービス業に職を見つけるしかないだろう。職場条件に不満を溜め込み、類似の犯行が行われるのでは? と危惧する所以はここにある。「劣化する日本社会の底辺」をどうするか? が今後の日本社会の一大テーマに浮上すると予測する。

-以上−
2014年2月21日
九州ホーム